劇場公開日 2019年3月1日

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「良作だが、アカデミー作品賞には違和感」グリーンブック アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0良作だが、アカデミー作品賞には違和感

2019年3月10日
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鑑賞方法:映画館

字幕版を鑑賞。2018 年度アカデミー作品賞受賞作である。どんなに映画を見ない人でも、作品賞を取ったほどの映画は無条件で見る価値があると昔から思って来たのだが、時々首を傾げたくなるような受賞作に出くわすことがある。

例えば、1999 年の受賞作「アメリカン・ビューティー」よりは、「グリーン・マイル」の方が上だったと思うし、2012 年の「アルゴ」よりは「レ・ミゼラブル」、昨年の「シェイプ・オブ・ウォーター」よりは「ゲット・アウト」の方が相応しいのではないかというのが個人的な意見である。この作品も、決して悪いわけではないが、映画としての出来は「ボヘミアン・ラプソディ」の方が上だと思った。

本作は、1960 年初頭の時代の黒人差別を題材にしており、細かなところまで非常に神経が行き届いていて、描き方も非常に丁寧なのだが、個人的にはアカデミー作品賞のレベルには達していないと思う。今年の監督賞はメキシコ人のキュアロン監督で、昨年の監督賞と作品賞もメキシコ人のデル・トロ監督、今年の作品賞は黒人差別が題材と、まるで反トランプ大統領という政治色の表明のためにアカデミー賞が使われてしまったような気がしてならないのである。

そう言えば、1989 年の作品賞に輝いた「ドライビング Miss デイジー」と本作は、運転手と雇い主の人種関係が逆転しているのが興味深い。「デイジー」の方は、白人の老婦人とその黒人運転手との 25 年間にも亘る関係を描いた傑作であった。本作の方はわずか2ヶ月間の話である。

人種差別を正当化する科学的根拠はない。最初に生まれた現代型の人類が黒人であったことは考古学上間違いないとされていおり、黒人以外は突然変異で後から発生したと考えられている。スポーツ分野において、陸上競技の各種の記録などを見れば、記録保持者やオリンピックの金メダル獲得者や、更にバスケット・ボールの超一流選手などには圧倒的に黒人が多いので、黒人が白人を見下すなら分からないでもないが、白人の方が優れているという証拠を挙げろと言われても特に思いつくものはないのに、現実的に差別する側になっているのは白人の側である。

1960 年代のアメリカは、人種差別が現在より色濃く残っており、特に南部の州では、黒人の利用を認めていないレストランやホテルも多く、黒人利用可能な施設を紹介したガイドブックが「グリーン・ブック」と呼ばれる小冊子である。この映画は実話に基づくもので、登場人物の名前も実話通りである。

アメリカで名の通ったジャズ系のピアノ・トリオが、2週間の南部を中心にした演奏ツアーを計画し、その運転手として、腕っぷしは強いがガサツでクセのあるイタリア系アメリカ人のトニーを採用するところから話は始まる。雇用主のドクは、黒人ながら超一流のピアニストで、ロシア留学の経験を持ち、カーネギー・ホールの上の階に居住していて、ホワイト・ハウスにも時々招かれて演奏しているという大物で、気品と教養に溢れた人物である。

この2人がツアーを一緒に進めるうちに様々な差別に遭遇する訳だが、気になるのは、いつも窮地に追い込まれるのが黒人のドクで、それを救うのがいつもトニーや大物政治家など白人ばかりである点である。アカデミー賞の中継を見ていたら、この映画のスタッフは、監督をはじめ、多くが白人であったのが印象的であった。もう一つ気になったのは、全てが過去の話であって、現代に繋がる問題点を何一つ提示していないということである。

とは言え、非常に心温まる物語であるし、決して出来が悪いわけではないのだが、アカデミー作品賞はやり過ぎではないかというのが個人的な意見である。演出は、もっと泣かせる作り方もあったと思うのだが、かなり淡々とした作りであった。そんな中にあっても、ドクが一度だけドビュッシーを弾くところは素晴らしかった。また、トニーが妻に宛てて書く手紙の文章にドクが手を入れるところも素晴らしいと思った。
(映像5+脚本4+役者4+音楽3+演出4)×4= 80 点。

アラカン