「違いはあっても、友情は築くことができる」グリーンブック Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
違いはあっても、友情は築くことができる
「グリーンブック」(原題:Green Book)。
7,902人(2019年)と言われる投票権をもつ会員が選んだ、今年のアカデミー賞作品賞である。"白すぎる"と言われたり、"MeToo"と訴えられた結果としての、痛くも痒くもない選択になってしまったのかなぁ・・・と。
むしろ、尖った魅力的な作品がネット配信ばかりになることと、必死に闘っているような気もする(笑)。あくまでも個人的な印象だ。
カンヌのように審査員の個人的見解が色濃く反映されるものとは違っていいとは思うが、バランスを気にしすぎると、なんら特徴のない結果しか生まれてこない。
パルム・ドールの「万引き家族」以外の選択肢なんてあるわけのない、日本アカデミー賞の茶番を見るにつけ、権威に弱い日本人らしさを象徴していて、微笑ましかったり・・・。
「グリーンブック」は悪くない。人種差別問題を取り上げつつも、その苦しさや怒りを強調することなく、コメディの形を取ることで、心やさしくなれる映画である。
1962年、人種差別が強く残るアメリカ南部へ演奏ツアーをする、黒人ジャズピアニストと、運転手兼・用心棒として雇われたイタリア系白人運転手が旅を続けるなかで友情を深めていく姿を描く。"グリーンブック"は、黒人用旅行ガイドのこと。
国や宗教、人種や性別、LGBTQなど、劇中でも"実に複雑だ"と表現される諸事情を、あえて受け入れつつ、"暴力では解決できない"と諭す。
違いはあっても、友情は築くことができる。個々で分かってはいても、なかなか全体主義はままならない。
作品の随所で、多くの笑いが起きる。気の利いたセンス。
アカデミー賞脚本賞も受賞しているので、"今年のいちばん面白いストーリー"でもあるのだが、脚本を手掛けたニック・バレロンガが、主人公トニー・リップ(本名トニー・バレロンガ)の実の息子だという事実に感動する。
黒人ジャズピアニストを演じたマハーシャラ・アリ(Mahershala Ali)のピアノを含む演技力の高さ。まだ出演作品数は多くはないのに、「ムーンライト」(2016)に続いて、2年で2度目の助演男優賞も納得である。マハーシャラ・アリは、公開中の「アリータ:バトル・エンジェル」でも敵キャラ役で、不敵な笑みを浮かべているので、これからがますます楽しみだ。
近年、トム・クルーズ作品以外は、年2・3本しか翻訳をしない戸田奈津子が字幕を担当している(なので、英語セリフを聞いたほうがいい)。
(2019/3/1/TOHOシネマズ日比谷/ビスタ/字幕:戸田奈津子)