劇場公開日 2019年3月1日

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「根深い人道問題を温かく優しく描く」グリーンブック しずるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0根深い人道問題を温かく優しく描く

2019年3月1日
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泣ける

笑える

幸せ

いかにもアカデミーが持ち上げそうなテーマだなぁ、とちょっと敬遠ぎみだったのですが、バディものが好きなので鑑賞。
思いの外シニカルにならずに見れました。
人種問題に傾倒しすぎず、友情や尊重など人同士の関係性に寄せた描き方だったからかも知れません。
正反対のコンビ、やがて生まれる友情、クリスマスの救済と、よくあるシチュエーションながら、こちらのひねくれ心を刺激せず、スッと入り込んできます。

まず、バディ物としての出来が良い。
二人のキャラクター対比。エリートでインテリで裕福でクール、スマートでスタイリッシュで孤高の黒人ピアニスト。無学で肉体派で貧乏、陽気でがさつで恰幅良く、人情家で大家族なイタリア系運転手兼用心棒。プライドを崩さず暴力を嫌うシャーリーと、腕っぷしと場数で世渡りするトニー。学園物に例えれば、お堅い生徒会長と熱血ヤンキー。間違いなしの鉄板設定!
水と油の二人が、共に行動する内、互いのスタンスを学び、受け入れ、尊重するように。
黒人からも白人からも疎外されるシャーリーの深い孤独を知り、お喋りで強引で律儀で家族思いなトニーの温かさを知り、育まれていく友情。
バディ物の醍醐味です。

更に、二人を繋ぐ音楽の豊かさ、美しさ。クスッと笑えるユーモアの数々。
色鮮やかなそれらを交えながらも、背後に一貫して描かれる、暗く陰惨で徹底した黒人差別の現実。
主題であるそれに止まらず、民族間の偏見、学歴間の差別、富裕層と低所得層間の差別など、人と人との間に横たわる様々な軋轢。
全てを越えて、一人の友人として互いを愛する事のできた結末が、胸に温かな希望をもたらしました。

友情物語としての色合いも濃く、社会的問題提起としてはぬるい、という受け止め方もあるかも知れませんが、私には後味良く心地良いさじ加減に思えました。
心を大きく揺さぶられ感動して大泣き、というよりは、寂しさも悲しさも優しさも温もりも、じんわりと染み透り積もっていくという感じ。
排他的個人主義が高まる昨今には、必要かつ有効な薬となり得る作品では?

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しずる