「面白かったです!」十二人の死にたい子どもたち komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
面白かったです!
堤幸彦監督のかつての作品は、奇をてらったアングル、小ネタ満載の美術、ぶっ飛んだキャラクター、が特にTVドラマで面白さに繋がる演出法だったと思われます。
しかし時代が進むにつれ、奇をてらったアングルや小ネタ満載の美術が、リアルを求められる現代ではズレが出てしまって、正直、最近は自分は堤幸彦監督の作品を避けて来ていたところがありました。
そして堤幸彦監督のTVでは有効だった奇抜さも、映画になるとそれが深みを奪う結果になり、金を払って2時間じっくりと見る映画での食い足りなさにつながっていたと思われてきました。
つまりここ数年はTVドラマも、映画ならかなり前から、堤幸彦監督の作品は自分は好きではないな、と思われていたということです。
ところが前回の堤幸彦監督の『人魚の眠る家』をたまたま見た時、出演している役者の皆さんの演技の素晴らしさ、脚本の素晴らしさ、映画の本質を大切にしたアングルや演出に触れて、『人魚の眠る家』は本当に秀逸な作品だと自分も思われました。
そんな流れから堤幸彦監督の『十二人の死にたい子どもたち』も見てみたいと思われ見ました。
結論から言うと大変面白く優れた作品だと思われました。
かつての堤作品とは違い、奇をてらったアングルや美術の小ネタは廃され、どっしりとしたアングル、リアリティある美術、そして12人の素晴らしい若手俳優たちの演技を正面から引き出しただろう演出、があり、まさに映画的凝縮の時間がこの作品にはあったと思われます。
出演者12人の全ての演技が良かったと思いつつ、特に杉咲花さん黒島結菜さんの演技は見事で、正直この2人の演技の場面だけでもこの映画を見たかいがあったと思われました。
映画のトーンを決める主催者サトシ役の高杉真宙さんのアルカイックな笑いも、人物の背景を的確に表していて秀逸だと思われました。
長くなるのでここには書きませんが他の出演者の演技も良かったです。
おそらく映画の2時間に収めるために各登場人物の背景説明を簡潔にしたのだと思われましたが、省かれた背景説明を12人の優れた演技の行間で埋めていて、どの登場人物もその存在にリアリティある説得力がありました。
自分も、未遂も含めた様々な自殺に関しての、自身や身近な人、様々な事件や情報に触れてきたと思われますが、そんな蓄積からも、各登場人物の動機や状態の深さ浅さの多種多様さ、それを表現した演技に対して、違和感はほぼ全くなかったと思われます。
この『十二人の死にたい子どもたち』のレビューが両極端になっているのは、求めていたエンターテイメント作品と違った、のに加えて、セリフなどの人物背景描写を極力簡潔にした分、12人の演技の表情などからくる行間の読み取りの有無でそうなっているんだなと、他のレビューをざっと見て感じはしました。
ただ自分はその12人のセリフでない演技から伝わる行間に説得力があり、なかなか素晴らしい作品になっているな、とは思われました。
ラストのカット内での時間の長さも心情にリアリティを持たせていました。
この映画の役者の演技の秀逸さは『人魚の住む家』からの再現性があるので、おそらく(もちろん大元の役者の皆さんの演技能力が大前提なんでしょうけれど)堤幸彦監督の演出手腕である、と言ってしまってもいいと思われます。
自分は正直、堤幸彦監督の映画は何年か前までそこまで好きではなかったと思われます。
ただこの『十二人の死にたい子どもたち』は素晴らしく秀逸で面白い作品でした。
出演した役者の皆さん、スタッフの皆さん、そして堤幸彦監督に、観客としてそう伝えたいな、とは今回、静かに思われました。