十二人の死にたい子どもたち : インタビュー
杉咲花&新田真剣佑、若手俳優“だけ”の現場で得たもの
「同世代の俳優たちが、学園ものでも恋愛ものでもない作品で集まることは珍しい」と口をそろえて語った杉咲花と新田真剣佑。人気作家・冲方丁が発表したミステリー小説を実写映画化した「十二人の死にたい子どもたち」では、この言葉通り、廃病院を舞台に若手俳優12人の演技合戦がじっくり堪能できる。これからの日本映画界を背負って立つだろう俊英たちがそろった現場を杉咲と新田が振り返った。(取材・文・撮影:磯部正和)
“集団安楽死”を求めて廃病院にやってきた12人の少年少女たちが、あるはずのない死体を発見したことから疑心暗鬼になり犯人捜しをする様子や、それぞれの“死にたい理由”が明かされていくことによって起こる死生観や人生哲学の変化などが、緊張感いっぱいに描かれていく。
舞台は廃病院のワンシチュエーション。特に12人が対峙する地下の多目的ホールでは、5つのカメラを配置し、ワンシーンを長回しで撮るという独特の手法が採用された。本作のメガホンをとるのは、緩急さまざまな作品を世に送り出している鬼才・堤幸彦監督だ。
新田は「堤ワールドを体感できるのが楽しみだった」と撮影前から堤監督の現場に興味津々だったというが「テストも重ねて、いざ本番となると、直前でいろいろと変えてくることがあるんです。あるシーンでは、急に『変な声を出して』と言われたのですが、僕の考えていたイメージにはない行動だったので、瞬時に対応できなかった」と独特の演出方法に戸惑いもあったという。それでもなにが起こるかわからない現場のライブ感には「とても興奮したし、面白かった」と撮影を振り返る。
一方の杉咲も驚いたことがあったという。本作は長回しでの撮影のため、しっかりリハーサルを行うと聞いていたのだが、杉咲には全体でのリハーサルはあったものの、個人的にはなかった。「私自身、リハーサルはあった方が安心するタイプなのですが、堤監督が『(杉咲演じる)アンリは動きで人を制するのではなく、言葉で制するので』というヒントをいただいたきりで、私にはリハーサルはなかったんです」。こうした演出に対して不安だったと心情を吐露した杉咲だったが、最終的には、きっちりと決めた演技よりも、その場で生まれた空気感を落とし込んだ方が、役柄として生きると思ったのだろうと、堤監督の意図を解釈したようだ。
俳優によって演出方法を変えるという堤監督。それぞれ堤ワールドを体感した杉咲と新田だが、ふたりはクライマックスシーンでガッツリと対峙する。共にスクリーンで圧倒的な存在感を見せつけるが、新田は「お芝居の神様の手でビンタされた感じがした」と独特の表現で杉咲とのシーンの感想を述べる。続けて「僕に説明できる力がないのですが、一緒に芝居をしていて“すごい”と感じられる人。同世代でこれほど刺激を受けた経験がない。そのうえ、とても安心感があり、芝居に集中ができました」と最大級の賛辞を贈る。
そんな新田の発言に恐縮しきりの杉咲だったが、彼女もまた新田の現場での居住まいに衝撃を受けたという。「お芝居をしているときと、していないときの切り替えがすごい」と目を丸くすると「待ち時間など、スイッチが切れたように眠そうにしているのに、本番に入った瞬間、いきなり爆発したような芝居になるんです。何度も『嘘でしょ!』と自分の目を疑いたくなるような場面に遭遇しました」と証言する。
特に、物語が大きく動くシーンでの新田の集中力は杉咲にとっても経験したことがないような雰囲気だったという。「対峙している私はもちろんなのですが、現場全体が真剣佑さんのお芝居に引き込まれていくのを感じ、急に空気が変わったんです。自分自身のお芝居もかなり引き出していただきました」と感謝を述べる。
新田のスイッチの入れ方には、杉咲も大きく影響を受けたようで、撮影終了後、オンオフの切り替え方法を知りたかったという。新田は「僕はすごく緊張するタイプ。そうなるとうまく本番で力が発揮できないので、いかに作品から意識をそらすかを大切にしているんです」と語ると、一番いい方法は「寝ること」だと笑う。寝ているときが、一番リラックスして呼吸法も自然になるというのだ。ただ「キラキラ系の役だと、顔が寝ちゃうので、この方法は難しいんですけれどね」といつでも使える手段ではないことを付け加えていた。
「花ちゃんは芝居で現場を引っ張っていた」と話していた新田。杉咲は「全然そんなことはないです」と照れながら否定すると「それぞれが自分の役を一番理解しているという自覚のもと、自信を持って演じていたので、誰かが引っ張っていくという集団ではなかった。すごく刺激的な現場でした」と12人のメンバーたちの作品に臨む姿勢に大きく感化されたことを明かしていた。
次世代を担う杉咲と新田という若手俳優が「とても挑戦的で一筋縄ではいかない」と語っていた本作。二人にとっても今後の俳優人生の大きな起点となる作品になることは間違いないだろう。