「映画ってこんなシンプルになっちゃったのか。」長いお別れ JUNさんの映画レビュー(感想・評価)
映画ってこんなシンプルになっちゃったのか。
ちょっと期待しすぎたかもしれない。
というのは、自身が近年父を、そして現在母を介護しているせいからかも。
脳梗塞のリハビリの中、亡くなった父を母は献身的に介護していた。
そして、一人になってから、その喪失感からか、母はぼんやりとした日々を過ごすことが増え、
やがて認知症の症状がでるようになった。私は近居している息子だったので、父の時同様定期的に
行き、サポートし続けている。その中で、両親のたくさんのシーンを見てきたし、今も日々刻々と進行する母の心と記憶の移ろいを、一人の人生の収め方のひとつとして受け止めている。
この映画は、認知症になった父をめぐる家族の再生&確認の物語なのだろう。しかし、それにしてもあまりにリアリティを感じさせないファンタジーさが気になる。私が是枝監督のような映画が好きな人間だからかもしれない。個人の内面にあまり踏み込むことなく、かつての家族像によりどころを求め、それぞれの不安定な現在と未来はあえて描かない。わかりやすいステレオタイプの母の設定は共感が得やすい。現在日本の至ることろで無数の同じような状況が起きている中、この物語は今苦闘する家族に何を伝えたいのか。古いタイプの映画好きには、やはりもう少しシリアスな何かを表現してほしかった。
それにしても、男たちはここでもただ仕事にまい進し、老いて世話をしてもらう存在として描かれる。女たちは「家族愛」によってそれを支え、包み込んでいく。おそらく昭和の世代にはなんなく受け入れられる設定なんだろうが、果たして次女はこの先一人残された母を抱え、どのような未来を生きていくのだろうか。本当に優しいキャラクターだっただけに、心配になる。認知症の介護は極めて社会性の高いテーマなので、やはりファンタジーだけで終わらせてほしくはなかった。やはり期待しすぎたのかな。