「大切な人は忘れない」長いお別れ 森のエテコウさんの映画レビュー(感想・評価)
大切な人は忘れない
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70歳で認知症を発症した一家の主をめぐり、妻と二人の娘の長いお別れが始まる。
半年前は何ともなかったお父さん。
一度発症するとその進行は止まらない。
わずか数ヵ月で、今まで分かっていたことが分からなくなる。
親しい人は、その変化に戸惑い、受け入れることがなかなか難しい。
その中でも一番近くにいる妻が一番辛いはずなのに、それを表に出さず受け入れようとする愛情が素敵だ。
二人の娘も、夫や恋人との間で心揺れる。
この映画をパートナー同士の関係から眺めると、お互いを理解しようとする気持ちの大切さが染みてくる。
その気持ちがなければ、認知症でなくとも辛い状況にいくらでも陥る。
昨今の社会状況の背景に、この「お互いを理解しようとする気持ち」の希薄さがあるような気がする。
中野監督のインタビュー記事の中に、この映画の為に取材した医師の話として、「認知症は病気なんだから、自分の妻や子どものことを忘れてしまうのは当たり前である」が、「今、目の前にいる人が自分にとって大切な存在だということは忘れない」とあった。
主人公のお父さんは、長いお別れの中で、自分にとって大切な人である妻、娘、孫息子に、「お互いを理解しようとする気持ちの大切さ」を伝えて旅立ったように思うと、人が生きている意味というのは、単に生産性の有無や、物理的に役に立つ立たないではなく、もっと精神的なものではないかと気付かせてくれる、扱われたテーマとは裏腹に、希望を感じさせてくれる素敵な映画だった。
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