チア男子!! : インタビュー
横浜流星が痛感した“応援”のパワー 「チア男子!!」原作・朝井リョウと語る
“応援する”という行為に、思いをめぐらせてみる。映画「チア男子!!」(5月10日公開)に主演した横浜流星は、同作を通じて「応援してくださっている方々への感謝が、より強くなった」という。飛ぶ鳥を絶滅させる勢いで人気急上昇中の横浜が、史上初めての“平成生まれの直木賞作家”でもある原作者・朝井リョウ氏と顔をあわせ、インタビューに応じてくれた。(取材・文・写真/編集部)
原作は「桐島、部活やめるってよ」などの朝井氏が、母校・早稲田大学に実在する男子チアリーディングチームをモデルとし、在学中の21歳時に執筆した同名小説。“ハル”こと坂東晴希(横浜)が、親友“カズ”こと橋本一馬(中尾暢樹)とともに男子チアリーディングチーム「BREAKERS」を結成するさまを描く。男子チアという設定の面白さ、メンバーが集っていく高揚感、ダイナミックなパフォーマンスの迫力、そして絆と団結に対する偽りなきメッセージ。若手俳優たちの熱演にのせ、青春スポーツもの特有の爽やかな風が吹き抜けていく。
――本作への主演が決まったときの気持ちをお聞かせください。
横浜:体を動かすのは得意なので、得意なことをいかせるのは嬉しかったです。ただ作品に入る前、モデルである早稲田大学「SHOCKERS」さんのパフォーマンスを拝見したとき、素敵すぎて「自分たちにできるのか」と不安も大きくなりました。ですがコーチやSHOCKERSのOBの方々が指導してくださったおかげで、なんとかやりきることができました。
――その不安が、自信や手応えに変わる瞬間はありましたか。
横浜:徐々に技ができるようになり、不安が自信に変わっていくことも多かったです。とにかく3カ月間やってきたことを、後悔しないように全力で出し切ろうという思いで撮影することができました。「全力で取り組む」ことでしか、やはり不安は消せません。
――3カ月の特訓は、どうのような日々でしたか。
横浜:ありがたい3カ月間でした。ずっとキャストと一緒にいることで、本名だけでなく役名で呼び合い、絆を深めることができました。本当に青春を生きていました。映画は短い期間で撮影されることもあるなかで、この作品は練習期間を合わせると4カ月ほど。その時間をいただけるのは嬉しかったです。
――本作は朝井さんが在学中に書いた作品ですが、改めて執筆の経緯をお聞かせください。
朝井:青春スポーツというジャンルが大好きで、いつか自著もその“棚”に入ってほしいという思いがありました。しかし、このジャンルは書き尽くされてもいます。私は当時早稲田大学の3年生。今回モデルとなったSHOCKERSというチームは、早稲田大学で4年間を過ごすならば必ず一度は視界に入るような存在なんですね。例によって私も彼らの演技を見たのですが、あまりのレベルの高さに驚くと同時に、「これ、書かれてないんじゃないか」と思ったんです。ほかの青春スポーツものと違う点は、勝利を目指すのではなく応援するということ。なぜこの競技を始めたのか、という時点で物語がある。他作品と違う味付けができるかもと、取材をはじめました。
――チアをやるうえで大切だったことはなんでしたか。
横浜:笑顔を大切にしていました。初めてSHOCKERSさんのパフォーマンスを見た時、ひとりひとりの笑顔がキラキラ輝いていたんです。顔が筋肉痛になった日もあるくらい、笑顔を意識していました。
朝井:私の場合は“書くうえで大切だったこと”になりますが、執筆を始めたときは、読んでいる人が全身マッサージを受けて満足して帰る、みたいな作品を書くつもりでした。でも、だんだんと「うまくいかないこと」「人間関係の齟齬」だとか、団体競技の中でよくある「本当は同じ方向を見ていないけど、嘘をついて一瞬だけ同じ方向を見る」みたいな瞬間というか、そうしたことを書きたくなっていったんです。小説だと大会のシーンがありますが、私のなかでは大会を終えたら、あのチームは解散しています。奇跡的に一瞬、同じ方向を見ていた時間があった。そういう話なんです。私にとって大事なのは、根底に、人の心が完全に重なることは“無い”という思いを置くこと。私も会社員時代、ひとつの商品をチームで売り出すような経験をしました。そのとき痛感したのは、チーム全員がその商品に首ったけではダメで、悪い部分を指摘できるような人がいる大切さです。団体競技の描写でも、みんなが常に同じ方向を見ることではなく、大会やここ一番というときにいかに心の交点を持ってくるかが重要だと思っています。それを無視してしまうと、本作はすごく嘘っぽい物語になってしまいます。
――原作者から見てキャストの熱演、作品の仕上がりはどのように感じましたか。
朝井:映画化の経験は3度目なのですが、原作をそのまま実写化、ということを私は望んでいないのだなと改めて感じました。むしろ、文章の長所をどう映像の長所に変換しているのかを見るのが好き。セリフよりも情景描写など心情で伝える私の文章を、映像にどう変換しているのかを楽しみに見ていました。嬉しかったのは冒頭の長回しですね。こうやって映像に書き換える工夫をしてくれる、そんな心意気を持つ人たちによる作品がこれから始まるんだ――姿勢を整えさせてくれる感覚がありました。
――横浜さんが大学構内をめぐる冒頭のシーンは、ひとつの見どころですよね。
朝井:風間太樹監督は、まだ27歳ですよね? 年上の技術さんに囲まれるなかで、本当に大変だったでしょうね……。もう、そういう目線で見ちゃいますよ(笑)。
横浜:大切なシーンだったので、「時間をかけてでもいいシーンを作る」と、みんながひとつになった瞬間でした。やっぱり上の人たちは「時間!」と気にするんです。でも、監督は「気にしない。とにかくいいシーンを撮るんだ」って。
朝井:へえ、たくましい!
横浜:そうなんです。段取りのとき、大体そこまで時間がかからないじゃないですか。普通は動きを確認し、カメラテストをやって、はい本番。でも監督は、僕たち1人1人に「こういうシーンにしたいんだ」と、役の気持ちなど時間をかけて伝えてくれるんです。
朝井:心強いですね。
横浜:「明日が完成披露試写会ですね」と別の作品の連絡をいただいたことも。全員に、個別にですよ。その思い。なんて素敵な人なんだろうと思いました。アツい人ですね。
――横浜さんは原作から何を感じ、何を得ていったのでしょうか。
横浜:原作を通じ、そしてチアリーディングに初めて挑戦して、感じたことは応援のすごさです。とてつもないパワーを持っているんです。改めて、応援してくださっている方々への感謝の気持ちが、より強くなりました。
朝井:(目を見開いて感心しながら)えらいですねえ……!
横浜:(笑)。応援してくれる人がいないと成り立たない職業なので、より強く応援してくださる方への感謝を思い出させてくれた。だからこそこの作品を見て、自分たちの応援が誰かの心に響けば嬉しいです。