「お久しぶりです、寅さん」男はつらいよ お帰り 寅さん おちゃのこさんの映画レビュー(感想・評価)
お久しぶりです、寅さん
寅さんに少なからずの思い入れがある人は、この映画を観ずにはいられないだろう。
私もその一人だ。鑑賞中、この映画の登場人物のように自分の軌跡のどこかに寅さんがいて、車家の生活感が不思議なほど自分の生活に馴染んでいることに気が付く。
昨今の隣人よりもずっと近いご近所のような存在。元気で幸福でそのままであってほしい物語。
満男くんの娘が渡鬼を彷彿とさせるような浮いたセリフ回しの出来すぎちゃんだったり、泉ちゃんのお父さんが橋爪功になっていたり、出版社の芸人や冒頭の桑田佳祐のそれじゃない感等、気になる点は多々あれど、寅さんの顔をみると自然と頬が緩んで細かいことはどうでもよくなる。
それにしても若き日のさくらちゃんのかわいさよ。「男はつらいよ」における真のマドンナは紛れもなくさくらちゃんなのだと思う。
寅さんの映画が日常を描いていること、その「日常」がもはや自分の人生の日常に組み込まれていることで、フィクションという概念を忘れる唯一の映画。「お帰り」というよりも「久しぶり」というほうがふさわしく、神保町の喫茶店に行けばリリィママに会えるような気がするし、「映画」って人の日常の延長線上にあって、それこそが「映画」なんだなと改めて感じる。それほどに「日常」として人の心に溶け込む作品は偉大でかけ替えがなく、50作品の重みと時の流れを超える作品にはもう出会えないかもしれない。振り返って50作品全て観てみたい。
あと、夏木マリが役者としてかっこよすぎて惚れ惚れする。
寅さんにある程度思い入れがあったり、登場人物の関係性を知っていないとこの作品を楽しむのは難しいと思う。同窓会に行って酸いも甘いも思いを馳せるような、評価とかそういうのではない、そんな映画。