パッドマン 5億人の女性を救った男 : 映画評論・批評
2018年11月27日更新
2018年12月7日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
インドの“きっと、うまくいく”精神が、女性たちの幸せを広げる
マーベルのヒーローものではないが、ヒーロー映画と言っていい。インドで妻のため、ひいては女性たちのため、苦難に立ち向かった男のドラマチックで痛快なサクセス・ストーリー。“きっと、うまくいく”精神が女性たちの幸せを広げるという、嘘のような本当の話である。実話の素材にフィクションの旨みを加え、娯楽映画として料理する手腕にかけては、インド映画は間違いなく世界随一だ。
ラクシュミは北インドの貧村で暮らす、気のいい愛妻家。彼はある日、妻ガヤトリが生理のときに汚いボロ布で手当てしているのを知り、心を痛める。不衛生は万病の元。市販の生理用ナプキンを「高価すぎる」と妻に拒否されたラクシュミは、安価なナプキンを自作しようと思いつく。この当時、インド女性のナプキン使用率はたったの12%。生理中の女性は室外の檻に隔離されて過ごすというのが、つい最近、2001年の話だなんて!
ここからが闘いだ。敵は無理解と古い因習、価値観。生理=穢れと定める人々の意識は手強く、愚直なラクシュミは妻を守りたい一心で暴走する。試作品を自らの股にあてがい動物の血が漏れないか実験した挙げ句、白いズボンを真っ赤に染めて聖なる川に飛び込むのだから、ヘンタイ視されてもしかたないか。つらいのは、誰あろう妻が研究を非難し、恥だと泣いて実家へ帰ってしまうこと。それでもラクシュミは諦めない!
後半ではラクシュミの一途さと発想力が、幸運を引き寄せる。素晴らしいのは彼がナプキン製造機を発明したのみならず、それを安価で農村の女性たちに販売し、女性たちが儲けを出せるシステムを思いついたこと。自分の利益より女性の幸せを考える彼に協力するのが、進歩的で活動的、妻とは正反対の女性、パリーだ。このキャラクターがとてつもなく魅力的で、惹かれ合う2人の描写も抑制がきいていて秀逸だ。そしてラクシュミのニューヨークでのスピーチが、スポ根ドラマにおける勝ち試合のような感動を呼ぶ。
だが一方で、彼が成功を報告してもなお「まだナプキンのことを続けているの!?」と嘆き悲しむ妻の姿はショッキング。彼が故郷の英雄になったのは新聞に載ったからであり、まだまだ意識改革までの道のりは遠いのだ。女性の生理があるおかげで、みんな生まれてきたのに……。
そのほろ苦さも含めて、極上のクオリティ。娯楽映画にほしいもの全部を盛りつけた上、社会の弱点を突き、まだまだ不当なほど地位の低い女性たちを応援し、再考を促す。たいした映画なのだ。
(若林ゆり)