ラストレターのレビュー・感想・評価
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信条の一貫性
岩井俊二は主要作を見ていますがとくに思い入れはありません。が、岩井俊二にかかってくる形容詞がわからないわけではありません。
姉の同窓会に勘違いされたまま出席する──があります。
この設定が、まったく呑めず、骨がつっかえたまま進む映画でした。
おさななじみ、同窓というものは10年20年30年経っていてさえ、明確なおもかげを残しているものです。解らないはずがないのです。
強引すぎます。裕里が乙坂に出会うには、もっとちがう方法があったと思うのです。
いや、ちょっと待ってくださいよ。
細かいことにこだわってしまっているの──かなあ。
まず姉妹は、双子の外見設定を持っていません。
その姉の同窓会──人数が多いので同期会だとおもいます──に行ったら、妹に間違えられ、百人かそれ以上が集まっている広いホテル会場でスピーチをするのですよ。
ありえなさすぎます。ましてや仲多賀井高校は田舎の高校です。年子ならたいていの生徒が妹を知っているはずです。
識別ができないほど似ている──のならともかく、全員が妹を姉だと勘違いしたまま、進行する世界なんて──
ありえないわけです。
むろん、創作なのでありえなくてもいい世界です。
ただ、映画はあるていどリアルな質感をしています。ありえないことが、気にならないファンタスティック映画ではなく、現実に寄せてくる映画です。
だから、気になるのです。
この飛躍を受け容れられないことは、個人的な岩井俊二観でもあります。
リアルな心象をあつかう一方で、大胆な飛躍をする作家──だと思います。
美咲が負った運命にも苛烈な飛躍があります。DV男に宿られ悲運を遂げる──なんか短絡を感じたのです。
でも映画はきれいです。なにしろ俯瞰の粒立ち。ぐっーとパンする佳景の気持ちよさ。青葉城からの眺望を堪能することができます。ドローンさまさまです。
しかし見進めるうちに、勘違いに気づきました。おもいすごしかもしれませんが、岩井俊二をはじめて解った気になりました。ファンタジーなのです。
米仏合作の恋愛オムニバス映画New York, I Love You(2009)を個人的な野心を持って見ました。
岩井俊二のパートがどれか当てよう──というものです。
これは楽しい試みでしたが、当たりませんでした。
わたしが岩井俊二がなにか解っていなかったからです。
いまおもえば岩井俊二が担当したオーランドブルームとクリスティーナリッチのパートには、むしろ露骨なほど、岩井俊二があらわれていました。
会わない男女のやりとりです。てがみはありませんが、会わずにやりとりしていくうちに、うちとけ、恋愛感情にむすびつく話です。あきらかに独自性のあるパートでした。
恋愛譚オムニバスなので会える結末でしたが、ラストレターで解った岩井俊二は、いわば永遠に会えないけれど感応している恋愛です。いみじくも裕里の台詞にある『誰かがその人のことを想い続けていたら死んだ人も生きていることになるんじゃないでしょうか』が岩井俊二の主題ではないか──と思ったのです。
ただし、個人的に「距離や時間で会えない恋愛」の作家として知っているのは新海誠なのです。
映画を見る人が、感じる現象のひとつに、にわとりとたまごがあると思います。
岩井俊二を知っていて、その世界観を知っているつもりです。
ただ、岩井俊二以降、とりわけ若年の色恋をかたる創作物のなかに、まるで必須スタンスのごとく、岩井俊二節が出てくるので、だんだん本家本元が解らなくなってくる──わけです。
これは、とても重要な現象だと思います。
映画が発展する行程で、その最初のもの──もっとも原始的な元祖が、もっとも影響力を持っています。それに異論はありません。
その傘下で影響を受けたクリエイターが二次創作し、二次に影響を受けて三次創作され、・・・四次五次と、新しい世代ごとに原初の魂は薄まっていきます。魂は薄まっていきますが、観衆としては、本家本元より、その影響下でつくられたもののほうが、面白い。──ということが、よくおこります。
簡単にいえば、その祖を築いた岩井俊二より、それに影響を受けた新海誠のほうが面白い、あるいは深作よりタランティーノのほうが面白い──というような現象を、わたしたちは案外よく知っているはずです。
長年映画を見てきて、ようやく気づいたロジックなのですが──
優れた映画監督が、影響を受けた映画として語るものは、すべて古典です。
影響を受けた映画が、古典でない監督は、たいてい優れた映画監督ではありません。
これは強引すぎるロジックですが、たいていそうだ──という実感があります。
わたしが才能があると感じる映画監督が、影響を受けた映画として挙げるのは、たいていプリミティブ(原始的)な創始者です。
長いこと、それが不思議でした。
なぜなら、わたしが才能を感じる映画は、その創始よりも、もっと複雑な心象を語り得ているからです。創始よりも、ずっと面白いからです。
それは、当然といえば当然の進化ですが、このロジックを知らないと、古典を楽しむことができません。
古くて評価の高い映画が、なぜ評価が高いのかを知るには、その二次三次四次を、度外する必要があります。われわれは、そこから派生した、数多くのもっと面白いものを知っているからです。
もちろん映画をどう見るかは当人の自由ですが、これが映画のにわとりとたまごです。どっちが先か考えます。しかし、二次三次四次とて、それが本物になってしまうと、煎じ物ではなくなります。新海誠を見た者にとって、そこが創始に変わるのです。
『~中略。そのなかでも、とりわけスタージョンの影響が強いのはサミュエル・R・ディレーニイである。
ある意味でどこか完成しきっていないようなもどかしさを残すスタージョンの世界が、もしもひとりで成長していってバランスのとれた宝石になっていったとしたら、それはおそらくディレーニイの諸篇に非常に酷似したものになるにちがいない。作中人物の口を借りて、彼みずからがスタージョンを賛美する『エンパイア・スター』はもとより、「流れガラス」や「スター・ピット」に見え隠れする色調は、スタージョン以上にスタージョンらしさがでている。』
(ハヤカワ文庫版シオドア・スタージョン著、矢野徹訳「人間以上」の水鏡子のあとがきより)
小説でも映画でも音楽でも、知らずのうちに、わたしたちはこのことを、多く体験しているはずです。
元祖がいて、その元祖からの脈を経て、世代ごとに、わたしたちが熱中するクリエイターがいるはずです。
たとえばジョーダンピールはスパイクリー以上に洗練された手口でスパイクリーのようなことを語っています。
長く映画を見ていると、そのことに気づきます。往々にして、後発のほうが、ずっと器用なのです。
才能を感じる映画監督が『ある意味でどこか完成しきっていないようなもどかしさを残す』古典を偏重していることがあります。たとえば新海誠が岩井俊二を絶賛しているとき、──なるほど、と思うことがある──というわけです。
なるほどファンタジーなのであれば、前述したありえなさが気になりません。
やっと岩井俊二が解りました。解った──と思います。
幼少時と現在がパラレルになっています。森七菜が印象的でした。密かに寄せる恋心が伝わること、と同時に、感傷へおちいるところを天真爛漫でぱっと回避します。むしろ広瀬すずが大人びて見えます。森七菜には演技の気配がなく、若さが見せる刹那の輝きをとらえていたと思います。そのリリカルは岩井俊二の独壇場でした。
多くの人々が感じる岩井俊二はそのような少女のリリシズムです。花とアリスみたいな、少女がたわむれて笑い合う情景──が「岩井俊二っぽいこと」です。この映画でも、水を抜いたプールの底で浴衣の少女が花火をする、とか──「っぽい」景色がたくさんあります。個人的にはそこに感興しませんが、おそらく多くの観衆が岩井俊二をそのように解釈しているはずです。これはラッキーな誤謬でもありましたが、もとより映画をどう楽しむかは各々の勝手です。
ですが、それは岩井俊二の枝葉に過ぎません。それがやっと解った──わけです。
この映画をさらに楽しむなら、前でも後でもかまいませんが、ラブレター(1995)を見ることです。混濁する人物相関と思い出。主人公は死者です。おもえば最初からファンタジーの作家でした。『ある意味でどこか完成しきっていないようなもどかしさを残』していますが、ラブレターが原初でした。そして25年の時をへだてて、かんぜんに一貫している岩井俊二を知ることができます。
手紙。
良くも悪くも想像通りの岩井俊二感
瑞々しい女優
この程度の手紙で、泣けますか!
人生は小説のように作家の思い通りにいかない、でもだから面白い
手紙っていいな。アナログっていいな。
次届く手紙や、来週放送される連ドラの続きが気になって仕方がなかった、あのそわそわ囃し立てられる感覚が恋しい…
そんなノスタルジーに浸らせてくれる作品。だけどちゃんと今の時代を鋭く、だけども優しくあぶり出す作品。
テクノロジーの進化、とりわけインターネットやスマホにより便利になった世の中。世界中の情報は秒で手の中に入れられる。
でも実際に近くにいる人、いてほしい人の気持ちはそんな簡単に測れるものではない。
結局本当に大切なものは失ってからじゃないと気づけない。と学習していても、また同じことを繰り返している。それが人間。
『Love Letter』と同じく、ふとしたきっかけで送り合うことになる手紙のすれ違いが生む、関わる人たちの運命的な人生の交錯。
それが絶妙にもどかしく、甘酸っぱく、ほろ苦く、微笑ましい。
その巡り合わせだけでも十分ドラマになると思った矢先、その過去に隠された出来事が展開を動かしていく。
最後まで心をぐるぐる動かされながら、ラストにはしっかりじんわりと目頭と胸を熱く締めつけてくれる。
そして慰めと希望を与えてくれる。そんな温かい映画だ。
それこそ『Love Letter』や『打ち上げ花火〜』『PicNic』『スワロウテイル』など独自の世界観でヒット作を生み出していた頃からしばらく離れてしまっていたが、天才・岩井俊二は健在だ。
ロマンチックが止まらない
ガーリー映画
時間軸の見せ方
「泣いた」
今年19本目。
フォローしている方のレビューが☆5.0で今日レビューを拝見しましたので、この映画館最終日に滑り込みで行けました。前から行きたかった作品。
内容は複雑に絡み合った人間関係が好きです。
最初の方は「これどうなっているんだろう」と頭を回転させながら、簡単には内容が理解出来ない作品を好みます。正に今作がその映画。
福山雅治が「マチネの終わりに」が凄い良かったので、今作はどんな演技を見せてくれるんだろうと、特別な演技でした。
実は好き程ではない俳優さんだったんですが、「マチネ」から完全に好きな俳優になりました。
松たか子さんも流石。アカデミー賞でアナ雪2の歌唱をしたのも記憶に新しいですが、やはり演技で魅せます。
広瀬すず、森七菜も本当に良かった。
泣くのが鉄板の映画だと思っていましたが、やはり涙が頬を伝いました。
Wレター
裕里(松たか子)・未咲の娘・鮎美(広瀬すず)の両方から鏡史郎(福山雅治)にレターが届くこと、鏡史郎がそれらに返信し続けていることは不自然だろう。未咲の死の直後の同窓会通知となりすましスピーチ・それを裕里とわかっていて追いかけたバス停で指摘しない鏡史郎に疑問あり。裕里には例えば未咲への嫉妬心を背景にした鏡史郎へのストーキングなどダークサイドを強調した別の役回りがあると良かったようにも思う。松たか子なら上手く演じられる。
ノスタルジック
生きているのが苦しくなったとき~この場所を思い出すのでしょう。
手紙がつなぐ人生の
きらめきと儚さを
体験する話でした。
光が織り成す美しいシーンと
ノスタルジックな世界観の
ストーリーで
直ぐに作品に吸い込まれました。
中年になっても
あの頃に繋がろうとする
鏡史朗の思いが、
少しあぶなくみえたり、
純粋に見えたりですが
遠い過去の人に
とらわれてしまったり、
何気ない誰かの言葉が
その人の
人生を決めることは
本当にあることです。
鏡史朗が小説家になったように。
だけど
幸せに暮らせず
深みにはまった話には
他人事には
思えませんでした。
そう、これも本当にあるし。
この作品が凄いと
思ったのは、
時間軸のつなぎの妙で
無限の可能性を感じたあの頃を
切り取り
わずか数時間に
表現してしまう凄さかな。
もし、
ああしていたら
という思いを
観る人を誘うようです。
誰もがもつ
大切な時間の引き出しを
開いてくれます。
おすすめ。
ノスタルジック
全体的に何処か昔懐かしい感じがする映画。
今はあまりされてはいない手紙のやり取りで、そんなに多くは語ることはないが、鏡史郎と美咲の関係と裕理の切ない恋が懐かしく、そして悲しく描かれた作品であった。
運命の出会いであったかもしれない二人に何があったのか?そこも多くは語られない所が見ている側に様々な想像をさせる。
なんとも言えない気持ちにさせる内容でした。
見終わって、思った事は映像から感じる安心感と様々な想像を掻き立てる悲しみを合わせ持った映画という印象。
主人公の何処か日常の自分に本当は満足していなくて、少し現実から離れる事が出来る手紙のやり取りの中から様々な感情を想像させる。
松たか子の演技力は見事でした。
福山雅治、神木隆之介に関しては非常似ているって印象を受けるほど、お互いの役にリンクし合っている所も一つの見所であると思う。
また若い二人の女優広瀬すずと森七菜は共に一人二役の難しい役をこなしていた。
広瀬すずは最早一流と言われる女優、凛として堂々とした役と何処か物悲しく、幼さの残る役回りを見事に演じ分けていたのは流石。
森七菜の自然な振る舞いで自由奔放に演じている様に見える演技は大器の片鱗を覗かせる。
この二人を非常に美しく撮っている岩井俊二監督は先見の明ありだと思う。
また豊川悦司や中山美穂を出演させるあたりもさすが岩井監督。
様々な思いを感じる事が出来、岩井俊二監督ファンならずとも懐かしさを感じ、見る側が想像を掻き立てる素晴らしい映画。
今この時代だからこそ見ておきたい作品の一つと言っても過言では無い。
一つ一つ綺麗に描いてる
岩井俊二に慣れていないから…
予告編と違う印象を受ける。最近の映画ではよくあることだからしかたないけど。松たか子演じる大人になった妹の演技は意外とコメディテイスト。後半は福山雅治の切ない思いを前面に泣かせにくるという構成。
でも違和感を覚えるところがいくつかあって、気持ちが乗らないまま終わってしまった。送別会に姉として参加、妹と気づいていたくせにずっと恋してたってメッセージ送信、筆跡の違う2種類の手紙、姉の結婚相手・恋に落ちた経緯など。40歳を過ぎた姉の姿はなく、大学時代の写真で済ますあたり、切ない初恋の思い出がかすんでしまうからなのか?岩井さんって若い女の子が好きなんだなーとは思った。
映像がキレイだったし、演じている俳優さんたちもよかったのでなんとなくいい映画だったなとごまかされてしまった感じがする。それって悪いことではないんだけど戸惑った。ラストレターって結局どれのこと?とか無粋なこと思ってしまう。あー、やっぱり岩井俊二に慣れてない!
始まりは、高校の同窓会から始まった。
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