「今もあなたを想ってます~25年越しのラブレター」ラストレター 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
今もあなたを想ってます~25年越しのラブレター
近年も『リップヴァンウィンクルの花嫁』などの意欲作を手掛けていたが、岩井俊二監督の作品が全国メジャーで公開されるのは久し振り。
『リップヴァンウィンクル~』も『リリイ・シュシュのすべて』もミニシアターだったし、『花とアリス』以来? ひょっとしたら、『スワロウテイル』まで遡るかも…?
岩井俊二の久々の全国メジャーは素直に嬉しい。
さらに、このタイトルから代表名作『Love Letter』を彷彿させ、期待は自ずと高まる。
確かに『Love Letter』を彷彿させる点が多々。
開幕は法事シーンから。ヒロインの仕事も図書員。
手紙から始まる物語。
現在と過去、交錯する想い。
演者の一人二役。
美しい映像と音楽、繊細で透明感と情感溢れる岩井ワールド。
岩井俊二がこの令和時代に届ける、新たな『Love Letter』。
『Love Letter』同様、ツッコミ所やオイオイ所もある。
2児の母・裕里は姉の未咲を亡くし、その葬式の席で姉の娘・鮎美から母宛てに届いた同窓会の報せを受け取る。姉の死を知らせる為代わりに出席するが、周りの勢いもあって言い出せず…って、そこはちゃんと言わなきゃアカンでしょ。
そこで、姉の元恋人で裕里にとっても初恋の先輩・乙坂と再会。姉と勘違いされたまま文通が始まる。幾ら初恋の相手と再会したとは言え、まだ言い出せないんかい!
文通は裕里が一方的に送り、こちらの住所は表記せず。困った乙坂は未咲の実家の住所に手紙を送る。
するとそれを未咲の娘・鮎美が見つけ、母に成り代わって手紙を書き送るのだが…、
未咲名義で送られてくる裕里と鮎美の手紙。文体や文字の違いに違和感あるだろうに。
乙坂はこれでも小説家。ちゃんと分かっていたし、再会したのが裕里である事も気付いていた。
裕里はある場所を“中継地点”として手紙を書いていたが、その住所を表記したので、そりゃあ訪ねて来るでしょう。
義母と恩師のエピソードや3人の文通が行き交い、『Love Letter』の方がシンプルであったのは事実。
前半はちと粗い点やコミカルな点が目立ったが、ここからグッと胸に迫ってくる。
手紙や再会した相手が裕里である事を知っていた乙坂だったが、未咲が死んだ事は知らなかった。
世間的には病死としているが、実は…。
ショックを隠せない乙坂。高校時代両想いとなり、大学時代付き合っていた未咲と乙坂。
が、別れた未咲はその後…。
高校時代の二人を知り、自身も乙坂に想いを寄せていただけに、裕里の涙ながらの言葉は悲痛。
「あなたと結婚していてくれたら…」
乙坂は別れた原因となった素性の知れぬ男を訪ねる。
未咲の人生をズタズタにした男で、本当なら一発殴ってやりたい所だが、逆に辛辣な言葉を浴びせられる。
それはろくでなしの戯言でありつつ、鋭く的を射てもおり…。
自分にとって、未咲の存在は何だったのか…?
いや、自分は未咲にとって大切な存在だったのか…?
また、裕里が密かに抱き続けてきた想い。
悲しい形で母を亡くした鮎美の思い。
三者三様の思いが交錯した時…
松たか子、広瀬すず、森七菜、神木隆之介、福山雅治…まるで狙ったかのような魅力的なキャスティング。
『四月物語』(←こちらも非常に好きな岩井作品!)以来となる岩井作品主演の松たか子は安定の好演。
学生時代と現在の乙坂の二人一役の神木クンと福山雅治。福山雅治はスターオーラを消してしがない中年男性の悲哀を滲み出していた。
何と言っても、鮎美と学生時代の未咲、裕里の娘・颯香と学生時代の裕里、それぞれ一人二役の広瀬すずと森七菜のフレッシュ感!
過去シーンで広瀬と森と神木クンが織り成す三角関係は演者の魅力もあって、甘酸っぱく切なく、作品そのものの肝と言っていい。
まさかの出演の庵野サンもユーモラスだが、『Love Letter』好きとしては中山美穂と豊川悦司のゲスト出演!
特にトヨエツは異様な存在感で場をさらうが、この2人が『Love Letter』のあの爽やかカップルのその後の姿だったらガッカリ…なんてね。
勘違いや交錯した文通から甦った初恋の記憶…。
もう一度。自分は未咲にとって大切な存在だったのか…?
あの頃、書き送り続けたラブレター。
大切に残され、それは決して忘れはしない想い。
誰より大切だった存在。お互いにとって。
密かに秘め続けてきた想いと再会出来て。
母とその周りの大人たちの思いを知って。
大切な人への想い。
初恋の人への想い。
母への思い。
あなたを想ってます。
25年越しの時(ラブレター)を経て、今も心の中にーーー。