「キレイにまとまってるのに、滲み出る強固なこだわりと情熱」スパイダーマン ファー・フロム・ホーム fall0さんの映画レビュー(感想・評価)
キレイにまとまってるのに、滲み出る強固なこだわりと情熱
ストーリーのまとまり方は優等生的だけどちゃんと小気味よく、映像はえげつないがしかし荒っぽくはなく、オタク用のネタもバッキバキなのにスマートで、何???これ??「すごくキレイに纏まってるけど満足感はそこそこの優等生ムービー」と「バチバチに製作陣の好みが尖ってて面白いけど小汚い中華屋みたいなムービー」の良いとこどりしたみたいな、なに??キメラ???キレイにまとまってるのに、滲み出る強固なこだわりと情熱。いっそ怖い。
まず、私はアイアンマンがずっと大好きだった。エンドゲームでだいぶ参ってたので、冒頭の手作りクオリティの呑気なスライドショーで半ギレになりつつ酷すぎて笑っちゃった。5年間人類の半分が消えてたんだから、残された側も戻ってきた側も皆それぞれにさぞ大変だったろうって想像は至るんだけど、それでも、ヒーローはもっと多くを背負ってたんだよなとか、それと比べると気楽なもんだよなとか、「大変さ」を比べても意味ないなとか、凄いモヤモヤするの。
世界のどこに行っても神格化されてるトニースタークを見るたびに息苦しくて憎くて、じゃあピーターパーカーはいかほど辛いのだろうって思うと、その度に胸が重くなる。ポップで明るいトーンなのに、チラチラ映るトニースタークの影を見る度に陰鬱が差しこまれるの。それって、ピーターパーカーが置かれてる状況そのもので、表面上は明るく振舞ってても滅茶滅茶に傷ついてるんだよね。スパイダーセンスがうまく働かないほど。ヒーロー映画で主人公のしんどさにここまでシンクロできたことあるか?ってくらい共感してしまった。これは私がトニースターク大好きだからっていうのもあるけど。
ミステリオ君のホログラム攻撃えげつな過ぎて、本当に怖かったし痛かった…こんな心にくる系のヤバいヴィランを16歳に当てるな…
ホログラム攻撃のシーンとか、ロンドンのシーンとか、アクションがキメッキメだったな。。。没入感とか躍動感とか、絵柄の新鮮さとか、色々えげつないのに、目が迷子にならないの、凄かった。変態だと思った。
ジェイクギレンホールは案の定サイコヴィランだった。しかも、やっぱりポスト・トニースタークを意識したキャスティングだったことが明らかで、めっちゃタチ悪いなって思いました。私は悪のジェイクギレンホールがだ〜い好き!
予告で別アース匂わされてワクワクしてたファンダムを全力でせせら笑いにきたので、一本取られたわい!って祝杯あげたくなっちゃった。(ここはアース616だよ!って言われて、え、199999じゃないの?って思ったんだけど、伏線だったのかな。)
「見たいものを見る」、本作のテーマなんだよね。観客はマルチバースや荒唐無稽でファンタジックな悪役(エレメンタルズ)を期待してたし、作中の一般市民たちはポスト・アベンジャーズを期待してたし、ピーターは完全無欠のポスト・アイアンマンを探してた。そのテーマを踏まえた上で黒幕の正体が「ホログラムを操る男と、映画の撮影クルーみたいな仲間たち」なの、凄いカウンターじゃん。
本作におけるトニースタークの描かれ方、とても良かった。そう、あの男は死んでなおヒーローだし、死んでなお激ヤバ粘着アンチがいるし、死んでなお倫理観ギリギリのテクノロジーを残していくし、死んでなお愛される、そういう人間なんだなぁって思った。セラピーだった。ピーター君からしたら大人の大天才スーパーヒーローでアベンジャーズの支柱の一人だったのかも知れないけど、ハッピーから見たら割と常に迷っててよくキレてた欠点の多い愛すべき友人で、ベックからしたら憎いクソ上司で、そういう多面性がぜんぶピーターや我々の目前に提示されて本当に良かったなと思う。ありがとう…
ピーターパーカー君さぁ、完全に「次世代のアベンジャーズ」としての姿を我々に提示してくれてたじゃん。とりわけ際立ってたのはスーツ開発シーンで、BGMのAC/DCとか完全にこちらを泣かせる気満々だったけど、そのへんに落ちてるものでDIYしてハンマーぽいものと盾っぽいものを作ってたのも滅茶滅茶かっこよかった。(AC/DCをレッドツェッペリンって言ってるの(たしか)、凄い可愛いし切ないね…ピーター君は若いのでトニーが好きだった音楽のことはよく知らないんだ。)ピーターパーカー君が短期間で非常に逞しくかっこよくなっててドキドキした。