「この作品には“痛み”がない」ターミネーター ニュー・フェイト ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
この作品には“痛み”がない
女性は出産という痛みを乗り越えて自身の子と出会う。ゆえに自己犠牲を払っても息子を守るという“母性愛”の強さこそがこのシリーズの肝であったはずだ。『T2』の正当な続編と銘打ってお披露目となった本作であるが、ストーリーの中心が従来のコナー親子から一人の少女に変わっている時点で、続編というよりはスピンオフ感が拭えないし、実際、このシリーズのストーリーは完結しきっていると作り手も含めて理解してるのではないだろうか。
それゆえに物語的にはやや軽い印象を受けてしまうが、テンポの良いアクションとシュワルツネッガーとリンダ・ハミルトンが手を組んで戦うシーンを再び見せたということで映画ファンへのサービスはやり遂げたと思うし、一見優しい表情でありながら残忍なREV-9はT-1000とは違った悪役の魅力もあった。
だが、この作品には“痛み”がない。人間とマシンとの違いの一つに“痛覚”がある。生物にとって痛覚は身の危険を知らせるシグナルであるが、マシンにはそれがない。銃で撃たれようが、腕が破損しようが、上半身だけになろうが、執拗にターゲットを追ってくる。『T1』はそれが怖かった。だが、一方でマシンも痛みというデータは持っている。だからこそ『T2』でサラの肩を刺して痛みを与えながら脅迫するシーンが恐ろしかったのだ。
リンダ・ハミルトンがシリーズにカムバックしたのは喜ばしい。しかし、マシンに対して何の躊躇も怯えもなく戦いに挑む彼女の姿に興奮するよりは、落胆してしまったし、何よりもアクションが今まで以上に派手なのに、生身の身体が傷つく痛みが感じられず、もはや登場人物全員がマシンであるのと変わらないような印象を受けてしまうのだ。ケガを負う、出血する、満身創痍になっても尚、戦わなければならない過酷な彼女の運命にこそ“Dark Fate”のタイトルは相応しかったのではないだろうか。