「難解な作品」サンセット 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
難解な作品
難解な映画である。まず映像の殆どが主人公の顔の大映しなので、場所の把握が難しい。映像酔いしそうな感じさえある。そして映される主人公の顔にはあまり表情がなく、視線の先の光景が説明なしに映される。主人公の意図がどこにあるのか、常に不明である。
それでも鑑賞中にいくつかの情報を得ることができる。ハンガリーでは日本や朝鮮と同じように、苗字~名前の順で表すようだ。
主人公レイター・イリスは対人恐怖や対物恐怖といった感情とは無縁である。観客はまったく感情移入できないまま、先の読めないイリスの行動にどこまでもついていくことになる。イリスが唯一はっきりと意思表示をするのは、火事で亡くなった両親の遺した帽子店で働きたいということだけである。その両親には秘密があり、雇っている針子たちのひとりを不定期に権力者に差し出していたようだ。
兄レイター・カルマンは、両親の罪を背負う覚悟をして、犠牲になった針子たちの復讐をするかのように、貴族をはじめとする権力者にテロを仕掛ける。イリスの無表情で不気味な行動力はストーリーが進むに連れてエスカレートし、心の荒んだ馭者さえ言うことをきかせるほどになる。それは兄の跡を継ぐことに必要な資格のように思える。しかしそれがラストシーンに繋がったのかというと、確証はない。
製作者の意図は商業目的でないことだけは確かだが、何が描きたかったのかというと、はっきりしない。第一次世界大戦の前年の出来事として、火種の燻るブダペストと、導火線に火を付ける意志の持ち主の誕生前夜だろうか。
一回の鑑賞では断片的な情報を集めて再構成するまでには至らなかった。しかしもう一度観るにはかなりの忍耐力を要すると思われる。