劇場公開日 2020年10月2日

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「「事実は小説より奇なり」を地で行くリヒターの人生」ある画家の数奇な運命 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「事実は小説より奇なり」を地で行くリヒターの人生

2020年9月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

美術の世界に疎く、現代美術の巨匠と評されるゲルハルト・リヒターのこともほとんど知らなかったが、リヒターの叔母がナチスの障害者安楽死政策で命を奪われたこと、妻の父親がナチ高官で安楽死政策の加害者だったことは事実だという。なるほど“数奇な運命”だが、ドナースマルク監督はリヒター本人に取材し映画化権を取りつける際、「映画の中で何が真実で何が創作かを明かさない」との条件をつけられたとか。3時間超の長尺に、ナチスの戦争犯罪とその犠牲者、東西ドイツ分断期の世相、新たな表現を追求する芸術家の生きざまなど多くが詰め込まれたが、“何が真実か”を観客に委ねる本作は、大局的に見るとドナースマルクの映画制作を介したリヒターの芸術表現の一環なのではという妄想さえ抱かせる。

クルト役のトム・シリングと、叔母役のザスキア・ローゼンダールは良かったが、妻エリーを演じた女優がやや魅力不足なのが惜しい。

高森 郁哉