「命あってこそ」ROMA ローマ movie mammaさんの映画レビュー(感想・評価)
命あってこそ
1970年から1971年のメキシコの一家と家政婦の激動。
家政婦のクレオが主人公なのだが、クレオが妊娠に気付き出産するまでの間、一度も家に戻らぬ一家の父親。
父親は医者、母親は元生理学者の家庭で子供4人、家政婦は2人。物にも恵まれ側から見れば何不自由なく見えるが、母親の心は家庭を顧みない夫に波打ち、取り戻そうと最初は思うが、後にあてにせず生きる事を決め、乗り越え強くなる。
一方クレオも、休みの日は同僚とダブルデートに行かれたりと、出身は貧しい村でも、仕事に就き住み込みでそこそこ恵まれた暮らしをしているが、雇用主の家のような豊かさとは産まれたときから立場が違うし、妊娠までしてしまい、お腹の子の父親フェルミンは妊娠を知るや姿を消し、晴れない1年が続く。
どんな経済的背景でも、仕事も持っていても、女性の扱われ方の地位が低い。
年が明けて1971年。飲み物の器は割れるわ、山火事は起こるわ、幸先の悪い年明けは予想的中。
スラム街出身のフェルミンのように、貧しい子供達は大きくなると怒りの矛先が政府となり、有り余ったエネルギーや若さ、不満をデモにぶつけていく。フェルミンも、武術に出会ったお陰で不良になりきらずにいたが、政治不安の渦に簡単に扇動されてしまった。
クレオは暴動する学生達が乱射する中、そこに混ざっていたフェルミンにたまたま再会するが、彼はクレオに銃を向ける。ショックもあったのか破水するも、暴動のせいで病院へ駆け込むのが遅れ、死産。
蒸発した父親の子に嬉しさを感じられぬままどんどんお腹は大きくなるが、望んでいなかった妊娠。それでも10ヶ月お腹にいた子を失った虚しさで抜け殻のようになっているが、一家の母親の計らいもあり子供達も連れみんなで海に旅行へ。
打ち寄せる波に溺れた子供達2人を泳げないのに助け、みんなで死にかけて、生きている事を実感する。
夫を失っても、父親を失っても、子供を失っても、絶望的状況でも、命は助け合って続いていく。そして、すぐそこに死はある。
淡々とした中に、大げさでない見せ方で、命あってこそなんだという事を教えてくれる作品。
家族の淀みを現すかのような、犬の糞の数。
それを掃除するのがクレオの仕事であり、家族の淀みを受け止めて清めているのもクレオ。母親の八つ当たりもその理由を黙って理解しながら、余計な事を言わず受け止める。
小さな子ほど親の気持ちに敏感で、最初から不和で何かつまんないなと抱えている節があるが、母親の気持ちを汲んだ行動をしていたりする。それでも、クレオには皆甘えんぼモード炸裂。家政婦さんって、子供にとってはちょっとした駆け込み寺、避難所だったりする。
階級社会では上から見られがちだが、家族を助け大きく影響する家政婦さんにスポットが当たっていて、彼女も1人の人間であり、家族の一員なんだと示しているところが良かった。
車庫に車が入る様子が、家族の変化をあらわしている。最初は、ぶつけるのはミラーだけで父親の目線が外を向いた暗示のようだが車体はすっぽりと収まる。父親が出ていくときは車は車庫の外。途中車を修理して気を取り直しクリスマス休暇を過ごしに行くが、その後も母親が駐車すると常にボコボコにぶつけ壊れゆく車と家族。最後は古い車を処分し、父親抜きで団結する一家のように、コンパクトな新車へ。家には、父親が本棚という枠を持ち去り、「理想の家族」という枠が取り払われても残った、中身の部分の本と母親と子供達。
家の中のカメラワークも独特で、徐々に間取りが見えてきて、最後に家全体がわかる構図。