「歌わずにはいられない」ダンスウィズミー sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
歌わずにはいられない
歌と踊りで日常から一気に非日常な空間へ観客を誘うのがミュージカルの醍醐味だが、ミュージカルが嫌いな人にとっては人が突然歌ったり踊ったりするのは不自然極まりない。
そしてその不自然さをそのままミュージカルにしたのがこの作品だ。
一流企業に勤める主人公の静香はミュージカルが大嫌いなのだが、催眠術師のマーチン上田によって音楽が鳴り出すと歌って踊らずにはいられない身体になってしまう。
静香は憧れの会社の上司に、あるプロジェクトへの参加を誘われていたのだが、このままではまともな日常生活を送ることは出来ない。
静香は催眠を解いてもらうために、マーチン上田の元サクラである千絵と共に彼を探す旅に出る。
本来ミュージカルの世界では歌も踊りもとても幻想的なものだ。しかしこの映画では幻想から覚めた時の現実の厳しさを目の当たりにさせられる。
静香が歌って踊る度に、現場がめちゃくちゃな状況になってしまうのは、本人にとっては気の毒だが観ている側としては面白かった。
考えてみると普段何気なく暮らしている日常は音楽で溢れている。
最初は迷惑をかけてばかりいた静香だが、次第に彼女は音楽によって人の心を解し、音楽によって人と人とを結びつける役割も果たしていく。
発想は面白いし、思わず笑ってしまうシーンもあったが、肝心のミュージカルのクオリティーがあまりに低いのは問題だった。
主演の三吉彩花もミスキャストだと感じた。
終始内輪だけで盛り上がっているような疎外感を抱いてしまう作品でもあり、一体誰に何を伝えたい作品なのか最後まで分からなかった。
宝田明を久しぶりに見れたのは良かったが、かなり衰えたなという印象を受けた。
『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』と、初期の頃の矢口監督の作品はどれも意欲的で面白かったが、ここ最近は迷走しているなと感じずにはいられなかった。