「戦艦大和を扱った一級のエンタメ作品です。」アルキメデスの大戦 マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
戦艦大和を扱った一級のエンタメ作品です。
戦争物の映画は終戦の季節に作られる事が多いけど、その中でも戦艦大和をテーマにした作品はなんとなく別格なイメージで、原作もある程度読んでる事もあり、鑑賞しました。
で、感想はと言うと、面白い!
重厚なストーリーに今までの戦争物とは一味違った切り込み口に楽しめ、第二次大戦の日本海軍の象徴たる戦艦大和の歴史は日本人なら誰でも知る所ですが、その悲劇的な結末を知っていても、鑑賞中にグイグイと引き込まれる。
正直、ここまで面白いとは思わなかっただけに嬉しい誤算です♪
ストーリーは数学の天才、櫂直が超巨大戦艦の建造費のからくりを暴き出すと言う、原作の約3巻までのお話が軸となっていて、原作は現在も連載中な為、何処まで描かれるのかと思ってたけど、4巻以降の話を描かず、大和建造のきっかけとなる決定会議迄を中心にしてますが、これが良いです。
話は戦艦建造に当たる以上に安価な建造費のからくりを暴くと言う点に焦点を当てているのでかなり明快なストーリー。
ですが、これが個人的には大正解で、どうしても難しくなる当時の状況と政治情勢にちんぷんかんぷんにならず、約1週間程の出来事ではありますが、非常に濃密な1週間の為、ここをじっくりと描き、細部までに緊迫感を出してます。
原作もこのエピソード以降は話が大きくなり過ぎている感が否めなく、櫂直が数学の天才から、戦争を回避する英雄的な描かれ方をしているので、ちょっと肩透かしな感じがしてるので、ここだけに焦点を当てた事で登場人物に深みがあります。
キャストもかなり良い配役で菅田将暉さん演じる櫂直は数学の天才としての1面を見せながらも、ヒステリックな1面が少し未成熟な面を醸し出して、逆にそこが魅力になってて良い。
個人的に良かったのは田中役の柄本佑さんと尾崎鏡子役の浜辺美波さんと嶋田海軍少将役の橋爪功さんと平山中将役の田中泯さん。
柄本佑さん演じる田中は軍の緊迫した空気に櫂の違和感を感じた際のユーモラスさが物語のメリハリを打ち出しているし、徐々に櫂の頼れる部下となっていくのも頼もしい。
また、櫂と田中に共通するのは台詞の間合いとテンポの緩急が上手いので、終始ダレる事なく鑑賞出来ました。
浜辺美波さん演じる尾崎鏡子は令嬢としての凛とした美しさを醸し出している。
橋爪功さん演じる嶋田海軍少将は階級を盾に自分の覇権だけを守ろうとする小物感がイヤらしくて良いw
櫂直との対比が面白くて、流石名俳優さんです。
田中泯さん演じる平山造船中将は櫂と敵対しながらも、終盤には毅然とした軍人の覚悟がとても素晴らしく、戦争を回避出来ない状況に大和が礎となる未来を見越しての覚悟はこの作品の肝に感じました。
漫画原作でありながら、非常に見応えのある作品の一端はこの田中泯さん演じる平山造船中将かと思います。
戦艦大和のモノクロ写真を見ると何処か絵空事の様に感じながらも、巨大の一言では片付けられない迫力に怖さを感じ、遠い昔の話にも畏敬の念と言うか、畏怖の念を抱く感じがします。日本人にはそれだけ戦艦大和と言う存在は特別な物だと思います。
戦争映画は数多く在れど、戦艦大和を扱った作品はそんなに多くなく、また殆どが大和の乗組員を描いた作品ばかりなので、戦艦大和の建造に纏わる作品は切り口としてやはり面白いです。
難を言えば…
巨大戦艦の安く見積もられた建造費のカラクリが鶴瓶さん演じる大里社長の所でアッサリとネタバレしても、その後の決定会議では特に捻りもないのに“大里社長の台詞、そのまま言っただけやないかい!”と突っ込んだのとw、ラストに平山が見せた約20分の1の大和の模型の他に造船中の大和の迫力が見たかったなぁ。
オープニングのVFXも迫力あるし、出演者の配役も良い。開戦間近となる緊迫感と、同じ海軍内であっても、それぞれの派閥の覇権争いも見応えがあり、ラストの大和が建造され、出向するシーンも胸に迫るものがあります。
流行りの俳優が出演していると言う色眼鏡で見ずに一級の戦争映画・一級のドラマチックなエンターテイメント作品かと思います。
作中にあった平山の「日本国民は負け方を知らない国民」と言う台詞は当時なら非常に重く、意味のある台詞に思えますし、今の何処か調子に乗った日本と言う国に対してと重い意味を持ち、この国の未来を案じての警告でもあると感じました。
終戦から70年以上が経ちますが、戦争の悲劇と多くの犠牲の上に今の平和があると言うのは忘れてはいけない出来事だと思います。
過去にこういった戦争があって、大和と言う悲劇の戦艦があった。またそれらを忘れてはならない切っ掛けの一つとしながらも、小難しく考える事以上に、映画作品としての面白さを堪能出来る作品かと思います。
かなり超お勧めです!