「主役から脇役までキャスティングが本当に完璧」マチネの終わりに ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
主役から脇役までキャスティングが本当に完璧
主役の2人がパリやニューヨークの景色に溶け込む、落ち着いた大人の雰囲気を纏っていてただただ美しい、というのはきっとご覧になった方は皆さん感じられると思います。
聡史さんと洋子さん、本当に酸いも甘いも噛み分けた大人で、仕事はプロフェッショナルで得意なことを使命を持って臨んでるのに、大きな壁にぶち当たる。
そんなときに、自分の根幹を成すような価値観がぴたりと合うような存在に出会ってしまったとしたら…もう惹かれるのは当然だなとごく自然に思えました。
仕事や家庭や周りに付随するすべてのものに目を向けられてしまうからこそ、もっともっとすれ違うし、本心のまま動けないもどかしさを激しく表すことはなく、ただその佇まいで伝わるのが大人だなと。
プラスで脇役が凄い。特に板谷由夏さんと桜井ユキさんはピッタリすぎる。
板谷さんは大人同士の友人として、近すぎずドライすぎず事の顛末を一歩引いて見てる存在。ちなみにほんとは石田ゆり子さんとはめちゃくちゃ仲良しなんですよね…そのギャップ含め面白いキャスティング。
桜井さんは最近破竹の勢いだし、私は個人的に少し前から注目している方なのですが、この方は本当に人間の負の面を見せるのが上手い方だと思う。
泣き方とか、表情の歪ませ方とか、言葉を選ぼうとして結局言い淀んで詰まるところとか、人がおそらく他人に見せたくないけど出さざるを得なかった面を凄くリアルに出せる方。いつも大変そうな役が多いイメージだけど、毎回絶対脇役でも目を引かれてしまう。これから大女優に化けてほしいです。
あとラストの方で、桜井さん演じる早苗さんがニューヨークに聡史さん送り出すところ。あそこでもう絶対この人一生の別れだと覚悟してるな、ニューヨークでホールを探しに行って、洋子さんに本当のことを告白した事も含め、ここで送り出す事、それが彼女の"罪"に対する贖罪だし、ケジメをつけるんだなって一瞬でわかったあのシーンは個人的に印象に残りました。
この作品のタイトルは、文字通り2人の最後の再会が"マチネの終わりに"でもあるし、人生という大きな舞台の折り返し地点を過ぎようとしている人間たちのある季節や年数の話としても読み取れます。
だからこそ、ラストシーンからエンドロールへの流れ方と余韻の残し方、鳥肌が立ちました。
最後の最後に2人が隣に並ぶことはなく、でもこの後噴水の周りをぐるりと歩み寄った先の邂逅の瞬間を想いながら、美しい音楽と共にエンドロールを味わうことができる…映画化したからこその醍醐味です。
近年のフジテレビ制作の映画みんな凄いですね。エンタメ路線だけど良作。昼顔、翔んで埼玉は本当に良くて、それに続いての今作なのでちょっとびっくりしてます。
【追記】
https://bookshorts.jp/hiranokeiichiro
原作の平野啓一郎さんのインタビュー。本作に関しても、小説全般に関しても、言及されてることが凄く面白い。
未来から過去を振り返る価値観、"分人"という視点、"名脇役"としての生き方…本作の重要なモチーフについて考えさせられます。