「“女優”という生き物」真実 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
“女優”という生き物
フランスの名女優“カトリーヌ・ドヌーヴ”の軽妙な丁々発止の洒脱な演技を余すところ無く観られるという印象なのだが、そもそもこの『女傑』出演作品を一つも観ていない。『シェルブールの雨傘』も、『昼顔』も、『ダンサーインザダーク』もだ。だから演技の凄みというのが正直解らなかったというのが正直な感想である。勿論、日本で言うところの故樹木希林のような怪演という触込みも監督本人からのアナウンスなのだが、自分が選択を間違ったのは今作を吹替で観てしまったことだ。宮本信子が声をあてているのだが、これだと、折角のカトリーヌ・ドヌーヴの台詞回しが消去されてしまう、それ以上に宮本信子自身が前面に立ち過ぎてしまって、監督の意図やメッセージ性が解読できない事に、我ながらポンコツ振りに愕然とする。やはりこういう心の琴線を丁寧に奏でるような作品は字幕じゃないとダメだと改めて反省である。
ただ、とはいえ要所要所のコメディタッチのウイットさ、皮肉の巧さ、洒落の高度さはおフランスの香しいセンスが立ち込め、その面白さは充分伝わった。
構成もそうだが、大変丁寧に作られていることはとても感じる。メタ的に、映画内での撮影もその作品と今作との繋がりを綺麗にシンクロさせ、亡くなってしまった母娘を結ぶとても大事な人と主演役の女優を重ねる立ち位置、まるでバットマンのブルース・ウェインとアルフレッドのような掛け合いの妙、自由な男の出入りや、ファンタジーっぽい亀の演出等々、随所に小気味よさが表現されていて本当に上品な作品である。
社会問題というより、一個の家族のあり方という視点から、フランス位の個々人の尊厳と尊敬を日本でも実現できたら、今の閉塞感のある程度は解消されるのではないだろうかと、そんなメッセージに思えた今作である。