「人を選ぶ作品・主婦または美大生向け」海獣の子供 みりぽんさんの映画レビュー(感想・評価)
人を選ぶ作品・主婦または美大生向け
表題の通り人を選ぶ作品。
注目ランキング上位ということもあり賛否両論だが、個人的に既婚女性または美大生のような芸術家肌の人向けではないかと感じた。
作品の魅力としては圧倒的なビジュアルだろう。壮大なスケールの海の表現は非の打ち所がなく、映像作品として十分に観る価値があると言える。
また音楽もジブリで有名な久石譲氏。重厚な世界観に見事にマッチした曲は思わず物語の世界に引き込まれるかのようだ。
高評価である点は特にこの部分であると思う。
一方で不満なのが脚本。主人公の女の子はすぐにキレるトラブルメーカーで、冒頭では部活の試合で問題行動を起こす。
しかしそれが伏線となることはなかった。海と空の二人の男の子とのふれあいにしても激しい喧嘩をすることもなく素直に打ち解けていく。
その二人との不思議な体験によって主人公に心の変化や成長と言ったものが特に無いため、作品の主題が何なのか非常に分かりづらいものとなってしまった。
映像から推測するに、海は母なるものの象徴で生命の誕生や神秘と言った抽象的な表現が主題だろうと感じた。これはやはり男性か女性かで感受性の差があるため、美しいものに感動するのは女性の方が多い。また、自らの出産の経験から言葉には言い表わせられない感動を映像から受け取ることができるのだと思う。
もしくは美大に通う学生など芸術家肌の人だ。映像からはアニメーターの美への探求心がひしひしと伝わってくる。
作品に何を求めるかによるだろうが、男性目線だと物語の主題を論理的に求めるため、このような抽象的な映像が続く映画は何が言いたいのか分からない印象を受ける。
それは会話にオチを求めるかどうかといった男女差とよく似ている。
恐らく、この作品は主人公の女の子やその周りの少年に感情移入するのではなく、母親目線で登場人物全体を俯瞰するような立ち位置で見るような作りになっているのではないか。
主婦として家事をしている最中に、子供は学校での生活はどうか、旦那は職場でどうか、と言った普段見えない部分をこの映画を観ることで共感を得られるのかもしれない。
セールス的な観点でも6月は大型連休が無く、映画館は平日の集客にどうしても主婦層を頼りにせざるを得ないだろう。そういう意味でもこの時期にこのような作品が登場し話題を集めているのも納得できる。