劇場公開日 2019年6月28日

「 何処からか集まりたまったヘドロが溢れてさらに下に垂れる。粘性の強...」凪待ち *たかはし*さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 何処からか集まりたまったヘドロが溢れてさらに下に垂れる。粘性の強...

2019年6月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 何処からか集まりたまったヘドロが溢れてさらに下に垂れる。粘性の強い臭気に満ちた拭いようのない澱の中でもがき、あがき、流されながら手を伸ばす主人公のどうしようもなさを香取慎吾が演じる。耐えがたさの中に更に色分けがあり濃度にも違いがあり物語を追ううちに自らの倫理に上下が付けられる。
 役者・香取慎吾のキャリアの中でも間違いなく今後しばらく筆頭に挙がる作品でありそれをたくさんの人に映画館で確かめてもらいたい。リリー・フランキーを始めとする周りを固めるキャストの在りようもそれぞれ素晴らしく、それでも生きていくというシンプルな境地を痛いほど噛みしめた。
 白石作品常連キャストが脇を固め加藤正人脚本の逃げ場のない展開と描写を丸ごと引き受けて圧倒的なメジャー感を全く感じさせずトリッキーなキャラクターでもなく、ただただギャンブルと酒に溺れる弱い中年男を演じきった。暗がりの中足元は見えなくて正しい方向は解っていても進めない。何度も何度も救いを求め何度も何度も救ってもらえるのにそれでもまた見失う。

 映画を観るうえでその中に自らを置くとき、登場人物に対して感じる感情が暗く重たく救いがたい人物であるのにそれでもどこか助かってほしい救われてほしいこのままでいてほしくない、と思えるときがくるのはそこに自らの中にある同じく何かから救われたいという感覚が掘り起こされるからではないか。それは映画の中の人物の状況とは違っていてしかし同調を誘うものである。

 香取慎吾は決して観客に同情をさせる演技や在り方でそこにいる訳ではない。観客もまた彼が演じるキャラクターに委ねたい訳ではない。どこまでもいつまでも見ているしか出来ない、というこの感覚は凪を待つという感じに近いのではないか。

 映画を映画でしか味わえない感情と感覚の旅だと捉える向きには是非とも劇場で体感して受け止めてほしい作品。

*たかはし*