「その愛に相応しい花(ヴァイオレット)と咲く」劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
その愛に相応しい花(ヴァイオレット)と咲く
同名小説をTVアニメ化した京都アニメーション作品。
今年の春レンタルで見た『外伝』が良くて気に入り、この完全新作劇場版も興味を持った。
あの痛ましい事件やコロナなど幾度の公開延期を経て、遂に公開!
感動、称賛の声…。
となると居ても立ってもいられず、TVシリーズを急いで全話見て、まだこの作品と出会って日は浅いが、隣町の映画館まで足を伸ばした。
まず、開幕のエピソードがTVシリーズで最も感動した第10話の十数年後…。
祖母が亡くなり、孫娘が古ぼけた手紙を見つける。
それは、早くに亡くなった祖母の母親が、まだ幼かった祖母の誕生日に毎年届くよう依頼した代筆の手紙…。
その昔、手紙を代筆する“ドール”と呼ばれる仕事と人たちが居たという…。
この物語の入り方、(親指を立てて)good!
大戦終結後、少女兵だったヴァイオレット・エヴァーガーデンはC.H郵便社でドールとして手紙の代筆の職に就き、様々な人たちが手紙に込めた想いに触れ、無感情だった彼女にも人の心が芽生え始める。そんな中で模索するのは、大切にしてくれたギルベルト少佐の生死と別れ際告げてくれた「あいしてる」の意味…。
…というのがTVシリーズの大まかな設定。
完全新作なだけあって、しっかりとその後の話になっている。
TVシリーズを見たので、郵便社の面々に懐かしさや愛着も。何とエリカは社を辞め、あの劇作家の助手に!
時折、TVシリーズのシーンも挿入。
ヴァイオレットのブローチとかリボンとかパラソルとか、あ~あのエピソードの!
TVシリーズ見ておいて良かった~!
相変わらず予約ぎっしりの人気ドールのヴァイオレット。
ある依頼を受ける。死期が近い少年が両親と幼い弟へ宛てた手紙の代筆。少々TVシリーズ第10話を彷彿。
素直になれない気持ちを手紙に込めて。
こういうエピソードもTVシリーズから引き続き。
またこのエピソード、終盤のあんなタイミングで悲しい報せが届くが、非常に胸打つ。
最期に、しっかりと気持ちを伝えられる事が出来た。
…が、いつも手紙に留まらせたままにしてしまうのは当のヴァイオレット。
休日、毎月決まった日に必ず何処かへ出掛けるヴァイオレット。
そこは、墓。少佐の墓…ではなく、少佐の母の墓。月命日には必ず訪れていた。
ある日、少佐の兄のディートフリート大佐と出会う。
自分もそうでありながら、いつまでも弟を引き摺るヴァイオレットに「忘れろ」と言う。
が、ヴァイオレットは言う。「生きている限り、忘れる事など出来ません」
そうなのだ。忘れてしまったら、それこそ死んでしまったも同然。
覚えている限り…。いや、生きていると信じている限り…。
大佐も言った傍から後悔。彼も弟を愛している。
にしても、この大佐も変わったもんだ。TVシリーズ初登場時はムカつく奴だったが、最終話辺りでヴァイオレットの純粋さに触れ、彼もまた本来は優しい人の心を取り戻し、ヴァイオレットを気遣ったり、今ではすっかり好きなキャラ。ひょっとしたら少佐より好きかもしれない。
そんなある日…。
社に宛先不明の一通の手紙が届く。
そして、時折登場する孤島の男性は…。
ヴァイオレットとホッジンズは会いに行く。
そこに居たのは…
ズバリ言ってしまおう。少佐は生きていた。
あの戦争で片目と片腕を失い、今は名をジルベールと変えているものの、記憶喪失でもなく、紛れもなく少佐。
どれほどの歳月が流れ、待ち望んだだろう。再会の時。
…が、
拒否する少佐。
何故なら、自分が彼女を不幸にした。
少佐はヴァイオレットに大切なものを沢山与えた。
と同時に、戦争の武器として使いもした。
彼女から全てを奪ったのも自分…。
そんな自分が今更、「会いたかった」と会わせる顔があるだろうか。
ヴァイオレットが幸せになる為の、せめてもの償い…。
かつて感情を知らなかった時の表情のように激しいショックを受けるヴァイオレット。
ホッジンズの「大馬鹿野郎ー!」は同じ気持ちになった。
愛を知らなかった少女。
愛を与えてくれた人。
それが今、
愛を少し理解した少女。
愛を拒む人。
念願の再会が、悲しい涙になろうとは…。
島を立つ前、ヴァイオレットは少佐に手紙を書く。
出会ってからこれまでの、沢山の感謝と愛を込めて。
気持ちは言葉にして伝えた方がいいと言う。
劇中でも、死にゆく少年が両親と弟の他に、親友に電話で気持ちを伝えた。
でも、それで伝えきれない時もある。かく言う私も超口下手なもんで、こうやって文章で映画の感想を書いている。
よくメールやLINEを否定する意見が多いが、決して悪いもんじゃないと思う。言うなれば、現代の手紙。
確かに手紙というのは廃れつつある。劇中でも電話が普及し始め…。
しかし、書く事によって、言葉では伝えられない想いを相手へ込めて。
それは代筆などではない。自分の本当の気持ち。
手紙の中に留まらせていた自分の本当の気持ちが、愛する人の本当の気持ちを突き動かす…。
クライマックスなどドラマチックなくらい展開は読めるが、見たかったものを感動的なまでに見せてくれる。
二人のその後はエンディング後のある映像のみだが、語らずとも思いに耽る事が出来る。
ヴァイオレットと言う名の愛の花は永遠に。
ヴァイオレットと少佐のラブストーリー。見事なまでの完結。
「あいしてる」は、ここに。
美しい物語、美しい映像、アニメ史上屈指の美しさのヴァイオレット。
あの痛ましい事件やコロナを経て、公開してくれて、
ありがとうございます、京都アニメーション!