「善悪の境界線を越えた先には…」ボーダーライン ソルジャーズ・デイ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
善悪の境界線を越えた先には…
アメリカとメキシコの国境で繰り広げられる麻薬戦争を描いた社会派アクションの続編。
前作は緊迫感溢れるエンタメ性と見応えもさることながら、平和ボケの国に暮らしている我々にとっては壮絶で戦慄で衝撃的でもあった。
本作も開幕から恐ろしい世界へ入り込んでしまう。
商業施設を襲った自爆テロ。多くの民間人が犠牲に。
銃撃や襲撃。それらが突如として起こるが、当たり前のように。
いつも何処かで恐ろしい事件が起き、命が巻き込まれ、奪われる…。
決して映画の中だけの絵空事と言い切れない。
しかし、それらと同じくらい恐ろしいのは、寧ろ…。
自爆テロは、メキシコ麻薬カルテルの手引きによりメキシコを経由してアメリカに不法入国した密入国者の犯行と断定。
アメリカ政府は、カルテル壊滅作戦を決行。その作戦とは…、
麻薬王の娘を敵対組織と見せかけて誘拐、カルテル同士の抗争を誘発させる…というもの。
目には目を…とは言うが、幾ら報復と正義という大義の下、こんな違法手段が命じられる。娘を利用してまで。
それだけじゃない。
思わぬ事態が起き、作戦は中止に。
証拠隠滅の為に娘が抹殺対象となる…。
アメリカ政府や作戦チームがまるで巨大犯行組織や暗殺集団に見えてくる。
カルテルとアメリカ政府、一体どちらが非道なのか。
善悪の境界線を越えた先には、法も秩序も無いのか…?
続投のベニチオ・デル・トロとジョシュ・ブローリンが男臭い魅力と存在感をたっぷり!
“シカリオ(暗殺者)”でありながら、誘拐した娘へ情を見せるアレハンドロ。
彼の家族を殺したのは娘の父親の手下であったが、娘に亡き自分の娘の姿を重ねたかのように…。
マットこそ手段を選ばない非道の張本人だ。
が、政府の命令や抹殺対象となったアレハンドロと娘に納得いかず、反して“やるべき事をやった”ラスト。
無法の戦争地帯で、ひと握りの救いを感じた。
脚本のテイラー・シェリダン以外、メインのスタッフをチェンジ。
クライム・ムービーを多く手掛け、抜擢されたイタリアの俊英ステファノ・ソッリマの演出は、ド派手なアクションや爆破、ヒリヒリとした臨場感や緊迫感の手腕を発揮。
故ヨハン・ヨハンソンの弟子による不穏を煽るスコアも師譲り。
でも本音を言うと、前作のスタッフでの続編を見たかった…。
デル・トロとブローリンの続投は嬉しいが、エミリー・ブラントの不在は残念でならない。
絶対的法と秩序だったが、善悪の境に立たされる彼女の存在はやはり大きかった。
その為今回は登場人物はいずれも境界線を越え、揺さぶられる善悪の概念にちと欠けた。
さすがに前作ほどではなかったが、それでも上々の衝撃と見応えの社会派エンタメ。
マットのその後。
「シカリオになりたいか?」とある人物の前に現れたアレハンドロ。
そして境界線を越えてしまったケイトもカムバックさせ、
是非とも第3弾も見たい!