ボーダーライン ソルジャーズ・デイ : 映画評論・批評
2018年11月6日更新
2018年11月16日より角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーほかにてロードショー
シェリダンの新機軸。麻薬戦争にセンチメンタリズムが宿る、“エンタメ化”現象
CIAエージェントのマックスと謎の中南米人アレハンドロが仕掛けるルール無用の麻薬戦争を描いた「ボーダーライン」に第二弾が登場!……と、決して間違ってはいないことを書いてみたが、強い違和感がぬぐえない。
そもそもドゥニ・ヴィルヌーヴが監督した前作は、エミリー・ブラント演じるFBI捜査官が麻薬カルテル摘発の特別チームに参加して、前述のマックスとアレハンドロの違法捜査に巻き込まれていく物語だった。エミリー・ブラントは、もはや自分が守ろうとしているのは正義なのかすらわからず、危険極まりないグレーゾーンにただ悄然とするのである。
いわば前作でのブラントは、われわれ観客に近い目線から、麻薬戦争の狂った世界を覗き込んでいた。ところが今回「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」の主人公は、麻薬組織への復讐心に燃えるアレハンドロで、まったく視点が異なる。われわれ観客も、常人には手に負えない“静かなる野獣”アレハンドロの人間性の深層に、ぐっと踏み込んでいくことになる。つまり本作は続編というより、同じ世界観を共有するまったく別のエピソード。本作を先に観てから前作に遡ったとしても、特に困ることはないだろう。
この二作品を繋いでいるのは、今やハリウッド再注目最注目の脚本家/映画監督となったテイラー・シェリダン。常に国境や辺境で起きる苛酷な現実を背景にした物語を紡いでいる人物であり、振り返ってみると「ボーダーライン」も、ヴィルヌーヴ監督の作品であるのと同じくらいシェリダン色が濃いドラマだった。そして今回、そのシェリダンが、あえて禁じ手にしてきたメロドラマ的な展開を堂々とブッ込んできたのだ!
なにがメロドラマ的かって、今回のアレハンドロは、家族の仇と狙う麻薬王の娘とバディムービーのように逃避行することになるのである。復讐以外の感情はすべて捨ててきたようなアレハンドロと少女の間に、一体どんなエモーショナルな化学反応が起きるのか? いや、それともやっぱりアレハンドロは、そんな感傷などとっくの昔に失くしてしまったのか?
とはいえシェリダンには、贖罪だとか魂の再生みたいな甘い感動を提供する気はさらさらない。しかし明らかにこの映画には、前作とも他のシェリダン関連作とも違うセンチメンタリズムが宿っていて、“エンタメ化”とでも呼ぶべき現象が起きている。王道エンタメとはほど遠いキャラクターたちのエンタメ街道がたどり着くのは、果たして天国か地獄か? シェリダンが繰り出す新機軸に、ぜひ翻弄されて欲しい。
(村山章)