「「金田一少年の事件簿」のブックカバーがついた「ゴルゴ13」。前任者があまりにもハマり役すぎた…。」蜘蛛の巣を払う女 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
「金田一少年の事件簿」のブックカバーがついた「ゴルゴ13」。前任者があまりにもハマり役すぎた…。
ハリウッド版「ミレニアム」シリーズの第2作。
舞台は前作から3年後。個人の端末から全世界の核兵器を操ることも可能になるシステム「ファイヤーフォール」を盗み出すことを依頼されたリスベットだが、彼女の前に蜘蛛の巣のタトゥーを入れた組織が立ち塞がる。
前作『ドラゴン・タトゥーの女』の監督を務めたデヴィッド・フィンチャーだが、本作では降板しており、代わりに製作総指揮を担当している。
一応『ドラゴン・タトゥーの女』の続編ということでいいのだと思うが、何やら複雑なことになっているハリウッド版「ミレニアム」。
ややこしいポイントその①:監督が違う。
非常に作家性の強いデヴィッド・フィンチャーが前作の監督を務めていたので、どうしても彼以外の監督が作った本作を観ると「なんか違うな〜」、という感じがしてしまう。決して本作の監督フェデ・アルバレスがダメっ!という訳ではないが…。
とはいえ、シリーズの続編を別の監督が担当することはよくあることなので、ここは許容範囲内。
ややこしいポイントその②:キャストが違う。
ここが一番の問題点。シリーズの途中で役者が変わることはままあるが、メインキャストの2人、ルーニー・マーラとダニエル・クレイグが変わったのは飲み込みづらい。はっきり言って前作の魅力の8割は演者の素晴らしさだった。そこが変更されるというのはちょっと…。
しかも、役者陣は前作よりも明らかにパワーダウンしている。ギャラの問題か?
特に、前作で一躍名を挙げたルーニー・マーラが凄すぎた。あの役者人生の全てを賭けたかのようなリスベットを観た後では、クレア・フォイのリスベットでは満足できない。
ややこしいポイントその③:そもそもこれ「2」じゃない。
原作の「ミレニアム」シリーズは今のところ6巻まで刊行されており、実は「蜘蛛の巣を払う女」は第4巻。
というのもハリウッド版が製作される前に、本国スウェーデンで『1』〜『3』は映画されており、1作目の『ドラゴン・タトゥーの女』の続編を作るにあたり、映像化されている「2」「3」はすっ飛ばしてまだ映像化されていない「4」を映画化しましょう、という流れになったとしても不思議ではない。原作を読んでおらず、ハリウッド版しか観ていない自分のような観客には不親切だが。
そのため、『ドラゴン・タトゥー』の続きの筈なのに、なんかうまく繋がってない気がするぞ〜?という感じになっている。
ややこしいポイントその④:映画のジャンルが違う。
前作は謎に包まれた令嬢失踪事件を追うというミステリー映画だったが、本作は世界を核攻撃の危機から守るというとんでもないスケールのアクション・サスペンス映画になっている。映画の趣旨があまりに違いすぎてビックリしたのは自分だけではない筈。
久しぶりに発行された「金田一少年の事件簿」の新刊が、「ゴルゴ13」みたいになっていた、そんな感じ。
原作を読んでいないのではっきりしたことは言えないが、そもそも『ドラゴン・タトゥー』と『蜘蛛の巣』は原作者が違う。
「ミレニアム」シリーズは「1〜3」がスティーグ・ラーソンが書いた「正典」。「4〜6」がダヴィド・ラーゲンクランツが書いた「外典」、と呼ばれているらしい。『スター・ウォーズ』の『1〜6』と『7〜9』の関係に似ている。
これはシリーズの生みの親スティーグ・ラーソンが早逝してしまったため。
めちゃくちゃ売れている小説のため、ここで終わらせるのは惜しい!となった出版社が別の作家に続きを書かせたらしい。どこの国でも同じような事が行われているのね…。
『ドラゴン・タトゥー』は正典の作品であり、『蜘蛛の巣』は外典の作品である為、作品の趣きが大きく違うのだろう。
このような理由から、よくわからない感じになっているハリウッド版「ミレニアム」。
本作の興行は大コケみたいだし、続編はもう作られないかも…。
映画の出来はそんなに悪いものじゃない。キャラクターの魅力は無くなってしまったが、前作のシナリオがあまり好きではない自分としては、本作の方が楽しい、と感じるところも多かった。
まぁ、クライマックスでNSAのおっさんが無双し始めた時は笑っちゃったけど😅
あと、この世界のハッカーなんでも出来過ぎ問題。リスベット、なんなくNSAをハッキングしてたけど、そんな事可能なの?そこの掘り下げだけでも映画が一本作れそう。
もし、ルーニー・マーラがリスベット役だったなら、確実に前作よりも好きな作品になった筈。
映画におけるキャラクターと役者の結びつきについて、考えさせられたシリーズでした。…続編あるのかなぁ?