「ミレニアムらしさは健在」蜘蛛の巣を払う女 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
ミレニアムらしさは健在
原作のファン。
ファンと言いつつ読了したのはだいぶ前なので内容は忘れつつあるが、キャストが一新しても「ミレニアムらしさ」は損なわれてはいなかったと感じる。
急逝した作者スティーグ・ラーソンの第二、第三作目をすっとばし、他の作家が代筆した四作目を映画化すると聞いた時は、時系列が混乱しリスベッドの「核」が抜け落ちるのではと心配したがそれは杞憂だった。
本国スウェーデン版より、ハリウッド版の前作【ドラゴン・タトゥーの女】の方が小説の世界観をよく表していたと思っていたので、一作目の暴力のなかの色気、フィルムノワールさが今回も踏襲されていたことが嬉しい。特にオープニング画面は今回も秀逸。
腕力では脆弱だからこそ、際立つリズベッドの魅力。元KGBでマフィアの父親のを持ち、天才ハッカーという特殊なスキルを持つパンクな出で立ちのバイセクシャルという強い個性が、同性をも惹きつける。
しかし何よりシビれるのは、彼女の決断力とその速さ。
知恵を駆使し、屈強な男たちに立ち向かう姿は、力でねじ伏せられている女性たちに勇気を持てと鼓舞しているよう。
DVで苦しむ女性や子供のニュースを見るたび、現実にリスベッドがいてくれたら…と思わずにはいられない。
本作では大分いろいろな要素が削ぎ落とされているし、一作目のルーニー・マーラの病的な美少女ぶりが目に焼き付いていてクレア・フォイの健康的な雰囲気にやや物足りなさを感じたが、ラストシーンの演技は良い。
普段は感情を表に出さないリスベッドが、唯一感情を露わにした相手、カミラ。不幸なすれ違いでは片づけられない生き方の違い。自分が棄てたのか棄てられたのか、葛藤しながら生きてきたであろう二人。
リスベッドは父親の下で暮らすぐらいなら死ぬ方がましという強い意志を持つが故に、カミラがまさか自分を待っているとは思わなかった。
他者への共感指数が弱いところがリスベッドの弱点でもあり、不幸を呼び込むところでもある。
もう一つ物足りないのはミカエルの存在感の無さ。小説では別々の場所で共闘していた二人が最後の最後でやっと顔を突き合わせるという非常にロマンチックな展開だったが、映画ではエレベーターのすれ違いという演出はあるものの中盤ですんなり落ち合ってしまうし、完全な脇役に回っていた。もし次回作があるなら、二人の絡みを丁寧に描いてほしい。
彼女が弱者の救世主たりえるのは、権力欲や物欲など世俗的な欲がないこと。
でもできれば「幸せになりたい」という欲は彼女に訪れてほしいし、それを与えてあげられるのはミカエルだけだと思う。
今のところ第四部でも絶妙な距離感の友人関係を結んでいる二人の関係がもどかしい。
しかし日本版のポスターにカミラの心の声がキャッチで使われていて、ちょっと配慮が足りないと感じた。最近キャッチでネタばれが多い気がする。