「これでいいのだろうか」ビューティフル・ボーイ 森のエテコウさんの映画レビュー(感想・評価)
これでいいのだろうか
映画としては面白い。音楽、フラッシュバック的演出、そして主人公の美しさ。それらが相まって物語から目が離せない。が、これでいいのかという思いが残る。
極めて依存性の高い薬物を、短期間断っただけで、これだけ回復するのだろうか?
過剰摂取で心肺停止に陥った彼女を、携帯片手に心肺甦生できるのだろうか?
致死量を越えて薬物を摂取して、命をとりとめる事がありえるのだろうか?
最終的に8年間シラフでいるという事実は実話に基づくものだろうが、エンドロール後半の主人公の詩の朗読を含め、描かれ方がきれい過ぎる。
この映画を観て、薬物に憧れを抱く若者がいてもおかしくない仕上がりに、どうしても評価をためらってしまう。
二人の母親の間で、心の暗い穴を埋めるために薬物に手を出し、依存症に苦しむ裏表を演じた主人公の演技は繊細で素晴らしい。
これは現代における奇跡の夢物語である。
だから映画になるのかもしれないが、薬物の依存性は年齢が若いほど強く残り、人生を破滅させる。
薬物が人と家族、社会を崩壊させる恐ろしさは、こんなものではないということを心に刻み付け、若者が興味本意で手を出すことだけは絶対にやめてほしいと祈るばかりだ。
エピローグで綴られた「米国の50歳以下の成人男性の死因の第一位は、薬物の過剰摂取である」ということが事実ならば、内戦よりも由々しき事態だろう。そこにフォーカスして社会に問題提起するドキュメンタリー寄りの作品の登場を願いたい。