「主人公へ突きつける、過酷な「隠された真実」までの道のり。」THE GUILTY ギルティ(2018) すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公へ突きつける、過酷な「隠された真実」までの道のり。
◯作品全体
通報の全貌を見通すことができない救急通報司令室で、自分の行く末をも不確かな主人公・アスガーが真実を受け止めるまでの物語。
先行き不透明な展開とその演出がとにかく徹底されていて、息を呑む作品だった。
物語とアスガーを「隠された真実」という共通点でリンクさせているのがまず面白い。通報者・イーベンとその元夫・ミケルの関係性を電話越しに、そしてモニターの情報越しに推測していくことで、頭の中で断定した真実が出来上がる。そうすることで本当の真実が隠れてしまい、事件をより深刻な方向へと進ませるのだが、これはアスガー自身の状況ともリンクする。
アスガーは被疑者を撃ち殺してしまったことで裁判にかけられている。信頼できる相棒・ラシッドからの証言があれば無罪になる状況で、アスガーは「故意に撃ち殺した」という真実を隠そうとする。二つの真実を(意図的でないにしても)隠すアスガーに待ち受けているのは、真実を隠した「罪」だ。
真実を見誤り、ミケルに罪を着せるような状況となったことによりアスガーは苦悩という罰を受ける。そしてその罰により裁判で真実を話すことを決意するが、そうすることでラシッドの証言が偽証になってしまう。そこでまた新たな苦悩を抱え、司令室を去るアスガー。真実を受け止めることの過酷さを、終始容赦なくアスガーへ突きつける二つの「隠された真実」だった。
そして真実に辿り着くまでの不確かで不安定なアスガーの状況を司令室という舞台で徹底的に演出していた。
本作は司令室以外の舞台が一切画面に映されない。パトカーが不審なバンヘ近づくときも、イーベンの家で凄惨な姿になった児童を知る場面でも、映されるのはアスガーの表情だけだ。これにより現場を映す映像とはまた違った緊張感があり、現場にいないことのもどかしさの感情が強く突き刺さる。そして逃げることもできず、ただ真実と向き合わなければならない閉塞された空間が、アスガーの先行き不透明な状況とリンクする。本作ではこうした先行きの見えない閉塞感を「腹の中のヘビ」というモチーフで語っていて、腹を掻き開くと痛みとともに隠された真実が出てくる、といった仕掛けになっていた。
誰も救われなかったように感じられるこの物語は、司令室で唯一外光が差しているドアを開けることで、幕を閉じる。その行き先に微かな希望があることを感じさせるラストではあったが、とにかくラストに至るまでの「罰」が心理的に重くのしかかる、ビターな作品だった。
◯カメラワークとか
・ファーストカットからして良かった。通報を受けるアドガーのボヤけたアップショットで、徐々にTBすることでピントが合っていく。通報の内容が徐々に判明していくのとシンクロさせていたのがすごく良い演出だった。
・イーベンがミケルをレンガで殴る直前の緊張感を赤い受信ランプで演出していた。画面内で使えるプロップが非常に少ない中で、ここぞというところではそのプロップを強調させていたのが巧い。
・長回しの緊張感がすごい。写しているのはアスガーの横顔だけでカメラも動かないのに、アスガーの張り詰めた心情を饒舌に語る。イーベンの家を警察が探るシーンが特に良かった。
・やっぱりなんと言っても画面を司令室内だけで完結させてるのがすごい。途中で場所を変えたりするけど、似たようなプロップと空間の中だけだし、外の光も最後まで一切映らない。確かにネタ切れ感あるカットもあったけど、その徹底っぷりに賛辞を送りたい。
◯その他
・イーベンの錯乱っぷりも容赦なかった。伝わらない言葉、まとまらない話を聞く時間のもどかしさとかを、観客のストレスになることをわかった上で映しているように感じた。アスガーがイーベンに深呼吸を促す場面でも最後までイーベンは深呼吸しなかったり、言葉が通じてない空気感の作り方が上手だった。