「騙された-露わになる二重構造」THE GUILTY ギルティ(2018) suiさんの映画レビュー(感想・評価)
騙された-露わになる二重構造
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騙された。犯罪捜査もので、優秀な捜査官の技術的手腕に感嘆させるためのサスペンスだと思って観たが、全く違う映画だった。
主人公のアスガーは捜査官としてはまるで駄目だ(劇中場面における彼は捜査官ですらなく、緊急ダイアルのオペレータだが)。
ストーリーが進むほど、彼の人間的な弱さ・未熟さが露呈されていく。
犯罪サスペンスのフレームを借りて見る、社会に適応できなかった人びとの肖像。この構造は面白かった。
イーベンの家族のままならなさ。アスガーからイーベンへの電話は徐々に懺悔の色を濃くしてゆく。
彼は罪を償う決意を固めたようだが、そうして自分と向き合うことが、このように「弱い」人たちが苦しみを逃れるための最初の一歩なのだ。
また映画として面白いのは、ほぼ「音」のみでストーリーを動かした点だった。
映像はオペレーションルームのアスガーから一度も切り替わらない。一貫してこの方法をとったのは大胆だ。
しかしアスガーに聞こえる音から、観客の眼前にはまざまざと現場現場の光景が浮かんでくる。雨を降らせたのも良かった。読書の様な体験だった。
ストーリーとしても、誘拐事件の緊迫感に加え、アスガーの公判について等の謎を配置することで、うまく観客の注意を引き続けている。
マチルデは今後どのようにして生きていくのだろう。病気の母と元犯罪者の父をもって。死んだ弟を思って。
アスガーが最後に電話をかけた相手は誰か?最後に残されたこの問いをもって映画が終わる。
私は彼の妻がその相手だったのではないかと思っている。
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