「“写実”という幻想」アメリカン・アニマルズ いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
“写実”という幻想
結局のところ、どこまでも“真実”という客観視点は、その当事者のフィルターが掛かれば“まやかし”の域を出ない。それは幾ら沢山の鳥の自然の生態を捉えた鮮やかで活動的なポーズであっても、それは死んでる鳥を針金と糸を用いて生きているかのようなポーズに固定する方法により描いていた作者の制作した図鑑でも同様だ。
今作の冒頭で“真実の物語”というテロップが強調されるが、その通りで、構造設計をストーリー部門と本人達のインタビューというシークエンスを差し込む形で、それがクロスオーバーしていくメタ展開に演出される、このところのハリウッド作品に散見される造りになっているからである。但し、段々と信用ならざる語り手により、どんどんとストーリーがぼやけてきて霧の中に突き落とされる羽目に陥る。
粗筋は四人の大学生が、鬱屈とした閉塞感の中で、それを打破するための“イベント”としてのプレミア本強奪を計画実行し、しかし理想と現実とのギャップにたちまち理性を失い崩壊していく、ダーク青春モノ作品である。こういう役を幾つもこなしてきたであろう若手俳優陣の演技はすっかり堂に入っている。特に気の弱い主人公役の俳優の丁寧だがどこか後ろ暗さを抱える演技は或る意味ワンパターンかもしれないが、なかなかそれを表現できる役者がいないならばどうしても集中してしまうのは仕方がない。
ストーリー前半の計画中のワクワク感の演出は、それこそ多幸感に溢れる。犯罪という禁忌を、しかしパーフェクトゲームに仕上げることが可能かもしれないという過信は、若さ故の高揚感であろう。こうして仲間達と一緒に同じ目的に立ち向かうイベントは、映画だけの世界ではなく、こうして現実にもあるんだという嬉しさを爆発させている。そしていざ、その完璧という勝手に思っていた、脳内完成図がガラガラと音を立てて崩れる様は、今度は観客共々居たたまれなさが容赦なく襲いかかり、前半にちょくちょく挟まれていたギャグ要素も鳴りを潜め、一気に夢から覚める。その一番の基点は人への攻撃による負傷。前半の脳内成功シーンの鮮やかでスマートな制御停止が、実際はもっと生々しく、そして尊厳を踏みにじる残虐な行為として繰広げられそれを否応なしに見せつけられる。そんな動揺が益々計画を陳腐な犯罪にメタモルフォーズしてゆく。動機は親の離婚による家族崩壊を受け止められない逃避や、漠然と目指してる成りたい自分に足りないピース(と勝手に妄想している)を埋めるためのハードル、友人を失いたくない想いや、親を超えたい気持など、中二病爆発によるスーサイドなのである。前半のファッショナブルさが際立つほど、後半の追い詰められる緊張感や失望感が生きてくるので、どんどん心が折れ続ける。別に今作品は、道徳的なテーマを訴える訳では無い。自己責任論を押しつけるテーマでもなく、理想と現実の中で溺れる青年達をありのままに載せてる“図鑑”なのである。しかし、その図鑑は本当に真実を写しているのであろうか、当人達にも分らない・・・
いぱねまさん、
コメント返信ありがとうございました!
そこまで褒めていただけると嬉しいやら小っ恥ずかしいやらですが、長いワンセンテンスなのに読み手を混乱させずにスルッと読ませるいぱねまさんの文章構成というか語彙の組合せも、こちらとしては勉強させていただきたいくらいです。
それにしても仰る通り、感情を表現するというのは本当難しいですよね……けれど、「これぞ!」という表現を見つけた時の愉しさというのも、これまた格別ですよね!
まあその後、いぱねまさんや他の方の玄人顔負けのレビューを読んで「わいは蛙や……小っちゃい井戸の底の蛙やったんや……」と肩を落とす所までがワンセットなんですが……。
またこっそりレビュー拝読させていただきますね。返信お気になさらず!
次回レビュー楽しみにさせていただきます。ではではで!
いぱねまさん、きびなごと申します。
コメントありがとうございました!
レビューお褒めいただいてありがとうございます!
とはいえ自分のレビューは長々とした文章で自分の感情を整理してるようなもんなので、僕のレビューよりもいぱねまさんのレビューの方が文章として成熟されていると感じるのですが……。
いぱねまさんの『アメリカン・アニマルズ』のレビューも拝読させていただきましたが、辛口かつ濃かったですね。
予告編でも『100%真実』という文言が使われていましたが、むかし僕が尊敬していた歴史学の先生が「“事実”はひとつだが、“真実”は当事者目線の“事実”であり、人の数だけ存在する」みたいなことを言っていたのを覚えています。
誰かが「これが true story や!」と言い張る物語を再現しても結局“写実”には成り得ない訳で、主人公達それぞれの真実がごちゃ混ぜになったのがあの再現ドラマと考えると、『100%真実』や『真実の物語』という文言も、作り手の皮肉めいた意図を感じて個人的には面白かった次第です。
長々と書くのは僕の悪い癖なので、
返信お気になさらず! 失礼致しました。