「一夜で飛べる鳥などいない」アメリカン・アニマルズ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
一夜で飛べる鳥などいない
2004年にケンタッキー州トランシルヴァニア大学で
起きた実際の事件を映画化。
大学の図書館に保管された、鑑定額1200万ドルという
オーデュポンの大書『アメリカの鳥類』を盗み出そうと
した学生たちの顛末を、事件を起こした当人達を含む
関係者へのインタビューと再現ドラマで構成……という
より、その2つが混濁したようなユニークな作りで描く。
...
まず楽しいのが、人を食ったユーモラスな語り口。
再現ドラマの途中で演じられている本人が登場して
「こんなんだったよな?」と主人公に話しかけてきたり、
「青いマフラー……いや、紫だったかも」というナレー
ションと連動して再現ドラマの映像が変化するなど、
遊び心たっぷりの演出がそこら中に仕込まれている。
主人公たちが強盗計画を練る前半はおとなしめでやや
冗長さも覚えたものの、先述の自在な語り口に加え、
夜の街灯下を行くフラミンゴ等々の奇抜なショットや、
強盗直前の変装~犯行までのピリピリと緊張感を煽る
キレの良さなどは素晴らしく、最後までダレずに観られた。
主人公たち4人はけっこう優秀な学生たちなのだが、
強盗の方法を教えてくれる人は周りにいないので
(いないね普通)、計画の参考に『現金に体を張れ』
『オーシャンズ11』『レザボア・ドッグス』といった
過去の強盗映画で勉強して真似する展開が可笑しい。
主人公たちが犯行を脳内シミュレーションする
シーンも、それこそ『オーシャンズ11』のよう
になめらかで鮮やかでクール!なのだけど――
いよいよ映画後半、実際に強盗計画がスタートすると、
予想外の事態やらイマイチ定まらない覚悟やらが原因
でアタフタドタバタの悲惨極まりない犯行模様が展開。
強盗後もやることなすこと裏目に出て目も当てられない。
ここの流れは傍から見ればほとんどコメディだけれど、
図書館員の女性を暴行し恐怖させたことは笑い事では
済まないし、主人公らの感じている緊張感や焦燥感も
イヤというほど伝わってるので、苦笑いしながらも
彼らの行く末にだんだんと気が重くなってくる。
...
僕も主人公たちのことを「バカだなあ」と笑ったり、
「考えが浅いわあ」と苛立ったりはしたけれど――
若い時分なんてのは誰だってバカで浅はかなもの
である(なんなら現在進行形でそうである)。
本作の主人公たちが抱える『今の自分を変えたい』
という鬱屈した気持ち、そして自分の浅はかさが
元で過ちを起こした後の羞恥心や絶望というものは、
誰しも大なり小なり身に覚えがあるものではと思う。
それに、多分誰だって一度は信じたいと願うものじゃないか。
自分の人生は特別なのだと。自分も何かきっかけ
さえ与えられれば、特別な何かになれるのだと。
主人公ウォーレンが、図書館に一緒に保管されている
ダーウィンの『種の起源』よりもオーデュポンの書に
惹かれたのは、幼くして母を亡くし、放浪しながら鳥類画
を描き続けたというオーデュポンの特異な生涯が、まさしく
自分の憧れる“特別な人生”として心を揺さぶったからだ。
実質的なリーダーだったオーウェンの、「こんな暗くて
じめじめした人生からは一刻も早く抜け出したい」という
想いも、若い彼にしてみれば切実なものだったと思う。
だが残念ながら“傑出”とか“不世出”とかいう言葉は
そもそも世の圧倒的大多数が凡庸であるからこそ
成り立つ訳で、特別な人間なんてそうそういない。
それに、たとえどんな大天才だろうといきなり世に
名を残すような偉業を成し遂げられる訳じゃない。
一夜で飛べる鳥は無し。事を成すのに近道は無いのである。
ウォーレンの青い瞳とフクロウの青い瞳とがダブるカット。
フクロウは300°近くも首が回るが、眼球そのものは
あまり動かず視野は狭いのだそうな。映画の所々で
挟み込まれるオーデュポンの描いた猛禽は、目先の
獲物ばかりに食らい付いて周囲を見回すことを
しなかった主人公たちを表していたんだろうか。
...
結局、彼ら4人に残されたのは、
名声でも劇的な人生でもなく、前科者の烙印と……
手前勝手な理由のために罪もない人を傷付け、
愛し信じてくれた家族を傷付け、そして
己の人生そのものを傷付けたという後悔。
animal は言わずもがな“動物”の意味だが、
他方では“人でなし” の意味でも遣われる。
動物的な本能のみに従って手前勝手に生きる
人間は、えてして周囲の人々を傷付ける。そして、
『若気の至り』だなんて優しい言葉が人生で通用
するのは、それで誰も傷付かなかった場合だけだ。
以上。
インタビューと再現ドラマを混濁させる手法に
よってしか生み出せない人を食ったユーモア、
そして舌先に確かに感じるリアルな人生の苦味。
ノイズミュージックのような硬質なスコアも
全編に不穏さと緊張感をもたらしていてグッド。
非常に楽しめました。大満足の4.0判定です。
<2019.05.18鑑賞>
畏れ多くもコメント返信頂き、誠にありがとうございます。寄る年波というよりもそもそものCPUの能力不足で、語彙力の圧倒的保持力の低さに苛まれておりますw
比べて貴殿の豊かなボキャブラリーの活用に唯々、羨望の眼差しで拝んでおります^^
貴殿の類い希なる文章力も勉強させて頂いておりますが、聴取しているラジオ番組、TBSアフターシックスジャンクションのパーソナリティ宇多丸氏の映画批評コーナーに於いて、リスナー投稿の文章もいつも舌を巻いております。修飾語やボキャブラリーの豊富さは努力の賜物でしょうね。
それにしても、感情を表現することの難しさはいつも思い悩むことしきりです・・・
ボヤキですみませんでした。