「【事実を装った嘘。】〜映画『ボヘミアン・ラプソディ』論考〜」ボヘミアン・ラプソディ Jackさんの映画レビュー(感想・評価)
【事実を装った嘘。】〜映画『ボヘミアン・ラプソディ』論考〜
この映画には致命的な欠点が二つある。
一つはフレディ・マーキュリーの実像との乖離である。例えば1986年のウェンブリースタジアムでのライブフィルムをご覧頂きたい。全身キレッキレでハードゲイ全開。フレディ・マーキュリーという人がいかに<エモーショナル>で<アナーキー>で<変態>かがわかるだろう。この映画の主演のラミ・マレックは決して下手な俳優ではないが、やはりフレディには届かない。
また、これは演出の問題だが、あれだけハードなライブパフォーマンスを行うフレディが、ステージ上で汗ひとつかいていないのはまったくもって合点がいかない。この映画の監督は、あのクライムサスペンスの傑作『ユージュアル・サスペクツ』を撮ったB・シンガーだが、今回は上手の手から水が漏れただろうか?
そしてもう一つは物語そのものである。「エイズ感染を告げられたフレディが病を押してライブエイドのステージに立つ」という点がこの映画の最も重要なプロットなのだが、実はこれが大嘘なのだ。
“20世紀最大のチャリティコンサート” であるライブエイドが行われたのは1985年7月13日である。そしてフレディがHIVのポジティブである事を宣告されたのは、実はその約2年後の1987年の4月の事なのである。まったくのフィクションならともかく、この映画は実在したフレディ・マーキュリーという人間の「伝記映画」なのだ。多少の脚色や誇張なら許容出来ても、この事実を「前後させる」ことは許されないだろう。
「事実を下敷きにしたフィクション」であれば映画に虚実混交は当たり前だが「事実を装った嘘」はいけない。「事実」の改ざんやねつ造によりその映画は作品として「贋物」になるからだ。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』を絶賛している人たちはこの事実を知っても尚、はたして手放しでこの映画を褒め称えるのだろうか?