「2020年代へのメッセージ」劇場版 SHIROBAKO PENGUINDRUMさんの映画レビュー(感想・評価)
2020年代へのメッセージ
TV版をリアルタイムで視聴しており公開前から楽しみにしていた本作。採点が甘めである可能性も否めないが、エンターテイメント性と作家性を両立させた素晴らしい完成度に仕上がっているように思った。特に「足掻く」という言葉は令和/2020年代へ強く向けられたメッセージのように感じられた。
冒頭、武蔵野アニメーションは4年の時を経て没落した状況に陥っていることがスクリーンに映し出される。丸川社長をはじめ多くのクリエイターやスタッフが和気藹々と働いていた環境から打って変わり、少人数の残ったメンバーで他社元請のグロス制作をする実情が描かれる。多少飛躍かもしれないが、ムサ二の状況から失われた30年を経た現代(=令和/2020年台)を連想した。
そんななか舞い込んできた、既に万策尽きたようなアニメーション映画の企画。あおい達は与えられた業務をこなすだけではなく挑戦する意思を示し、ひたすらに足掻く。与えられた現実を受け入れつつ、かつての栄光の時代が帰ってこないことを認識して、戦う。まさにこれは現代を生きるための処方箋なのではないだろうか。
同時に2000年代の作品に対して、批判とまで強くはないにせよ、違いを提示しているように思われる。当該年代ではお涙頂戴の美しい話、または変化しない日常を描いた話がトレンドであった。団結して虚構に逃げ込まない本作キャラクターの姿は、アニメーションというある種の虚構を皮肉しながら心に刺さる。
個人的にもっとも感動したのは、ラストシーンの朝礼である。映画が無事完成したことと関係なく、ムサ二には4年前に在籍していたフルメンバーはいない。出席しているのは没落後にも在籍しているメンバーだけである。しかし、これで良いのだ。今回のテーマは足掻くことであり、単純なサクセスストーリーではない。一つの大仕事が終わった見返りに失われた時代を回復する訳ではなく、待っているのは次の足掻きである。
話がそれるが、ミュージカルや遠山の金さん的(?)シーン、SIVAのラストでの戦闘など心象風景をストレートに描いているのも高評価のポイントである。賛否はあるのだろうが、個人的にはアニメがアニメであるべき理由の一つのように思う。
以上散文を綴ったがマイナスなポイントは特段見つからない。懐かしく、楽しく見つつ、視聴後には明日への活力を与えてくれる良作だと思われる。