「叫びに満ちた沈黙が続く苦しみ」あなたはまだ帰ってこない mimiさんの映画レビュー(感想・評価)
叫びに満ちた沈黙が続く苦しみ
捕虜となったユダヤ人の夫の帰還を待つ女。夫との感動の再会ではなく、ただただ、待ち続ける女の耐え難い苦悩と、彼女の内に秘められた叫びに満ちた沈黙だけが描かれているのが良かった。
死んだはずだと何度も言い聞かせてきた夫が生きて帰ってくると、待ち望んでいたその時のはずなのに、会いたくないのだと泣きながら、彼女は夫から逃げてゆく。
死んでいるに決まっている、そう考えたほうが良いのだと思いながら、夫の死体が転がっている溝のイメージに付きまとわれながら、彼との再会を待ち望むのをやめられない。
相反する感情の狭間でまさに引き裂かれるような苦しみを味わう女の日々を、原作の自伝的テキスト『苦悩』でデュラスは書いたが、これが映画ならではの方法で描かれていたのが面白かった。(私たちはほんとうに2人のデュラスをみることができる)
待つのはデュラスだけでない。
同じく捕虜になった足の悪い娘を待つ母親。多くの妻たち。母たち。
女たちはずっと、待ち続けている。
戦時下の苦しみを描く映画ながら、美しいイメージがいくつか印象に残っている。
彼女の部屋の、レースカーテン越しの柔らかい光。
夫が帰ってきたら行こうと決めていた、イタリアの海の輝かしい光。
このラストの海のシーンは、原作を読んだ時からずっと映像で観てみたかった。
移りゆく愛の形と、穏やかな海。観れて良かった。
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