天国でまた会おうのレビュー・感想・評価
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120点満点、完璧を超える作品
日本で公開された2000年前後のフランス映画は、観客を馬鹿にしているのかと思う程非常に酷く、私の中では「フランス映画はもう終わった・・・・・・」と、絶望に近い落胆感がありました。そのせいかフランス映画と聞いただけ、観る気が伏せてしまったのです。先日感想を述べた『最強のふたり』もまさにそれで、「フランス映画かよ、もう良いわ」って遠ざけていました。
「最強のふたり」が余りにも素晴らしいかったので、私の中のフランス映画に対する意識が大きく変わってきました。そこでWOWOWのフランス映画特集の中の1作として放映された本作を観てみました。
観終わった感想はもう絶句でした。あり得ないレベルの高さ、ここでの最高点は5点ですが、もしそれ以上の評価点があればそれを与えたい程の大傑作です。
映画としての完成度は完璧、未だにこんな傑作を観たという実感が湧かない程です。何か狐につままれたかのような気すらします。
本作の物語は第一次大戦後期から大戦後のフランスです。
仏軍のプラデル中尉は人間の死が大好きなサイコ野郎。その中尉が撤退命令を無視して味方の偵察兵を射殺し(これが最後の伏線につながります)、必要のない戦闘を仕掛けてしまいます。その無意味な戦闘に主人公であるエドゥアールとアルベールが巻き込まれます。エドゥアールはアルベールの命を助け、自らも顔に重傷を負ってします。
総裁の息子であるエドゥアールは、画家になる夢を父親に絶たれていました。顔を負傷したことから、戦死を偽装することにしたエドゥアールをアルベールは手伝うことになります。
戦後のパリで二人が貧しい生活をしていた時、あのプラデルが戦死者ビジネスで財を築き、更にエドゥアールの姉と結婚し、権力さえも手に入れようとしていることを知ります。そして二人は復讐の為に詐欺計画を企てます。
本作はフランスのベストセラー小説が原作で、とてもストーリーは緻密です。かつての上官への恨み、夢を挫折させ戦死させてしまったと思い込む父の哀しみ。本作はそういった幾つもの感情を丁寧に描き、ミステリー調に物語は進んでいきます。
物語の面白さ以上に素晴らしいのが演出です。監督を務めたアルベール・デュポンテルは、主役のアルベール役を演じています。つまり監督兼主役というわけです。でもその演技が実に素晴らしい。この方は映画史上において、多分監督と主役を同時にやった映画人として、チャップリン以来の才人と評価されるのではないかと思います。それ程素晴らしいです。でもこの方は20年振りに演出を担当して本作がまだ2作目なのです。この熟練した演出が2作目とは俄に信じられません。
本作の演出の特徴はカメラの移動を、左右以上に上下と前後方向にとっていることです。ミステリーやサスペンス映画に多い撮影技法ですが、本作はそれを更に推し進めて、カメラが車の窓を抜けて家の中へ入っていくとか、天井の穴から部屋の中へ降りて行くとか、物凄い撮影シーンが満載です。
とにかくワンシーンではなく、ワンカット・ワンショットが非常に凝った絵になっているのです。それだけで物凄い手間と時間が掛かっていることは充分に分かります。
それ以上に凄いのが美術です。戦場の場面や20世紀初頭のバリの風景、様式などが完璧に再現されています。そして溜息が出るほどの映像の美しさ。
本作はどこを切り取っても、第一級のシーンばかりです。見れば見る程素晴らしさを堪能出来ます。
本作は公開時上映館も少なく、余り話題にもならなかったようですが、映画を見慣れた方なら本作の素晴らしさはすぐに分かる筈です。もっと映画会社の宣伝部や評論家と呼ばれる方達は、喧伝すべきだったと思います。今はネットが有るのですから、著名な方なら幾らでも発信出来る筈です。本作を一生観賞せずに人生を終える映画ファンがいたら本当に不幸です。
本作は超一級の芸術作品です。まだご覧になっておられない方は是非観賞して頂きたいと願ってやみません。
不条理から錆び出た哀しさも悔しさも、こんな戯曲にしちゃいました!
戦争を利して富を築いた父親が許せなかった男。父親を愛していた男。自分の罪を許せなかった男。それがエドゥアール。ただただ生きるために生きた男。それがアルベール。
今年の第一四半期で一番楽しみにしていたのが、これとノーザン・ソウル。で、今6月ですよ。遅すぎるよ、とぼやきたくなるけれど、とにかく見れて良かった!
フランス文学・映画の死生観が好き。ある時はあっさり死ぬ。笑いながら死ぬ。洒落たこと一つ言ったあと死ぬ。誰かの死も笑い話にしてしまう。不思議な大気を身にまとった、フランスらしい物語に、心臓を緩くサラッとつかまれる映画でした。真面目に、好きで好きでたまらない!
「戯曲」って言う言葉が、一番似合うのはフランス映画。ですよね。
顔の一部を失ったエドゥアール。そこそこリアルな描写もあるし、シリアスな心象表現もしてくれるんだが、「救いの無い暗さ」には陥らない。エレベーターの中で元恋人と無言で再会し無言で別れるアルベールは、絶望も悲愴も指輪と共にゴミ箱へ、でケセラセラ。「詐欺師」を追い詰めるブラデル。クルーゾー警部並みのおちゃらけ感。顔はマジなんですけどね。建設現場で土中に沈んで行くブラデル。小さくバイバ~イと手を振りたくなる気分。いやブラデル、あなたが手を振りなさいよ。
ホテルのスイートのテラス。詐欺師を問い詰めに来た父親は、息子と邂逅します。最終的に、共に胸の内を告げ合い抱き合う親子。直後エドゥアールは「天国で」と言い残しテラスのボーダーを飛び越えて行く。夢を見ているかの様に、眺める私たち。
犯した罪が表に出た時、自分を消し去ってしまう人がいる。どんな境遇に在ろうとも、幸せだけを求めて路を歩もうとする人がいる。内側から流れ出るものに従い生きようとしたエドゥアールと、ただ生きるために生きたアルベール。戦争がなければ、共に生きることなどなかったであろう二人の小さくて大きな冒険の終わりは、モロッコのスリーショット。歩き去る男と女と子供の後ろ姿です。ただただ生きろ、って三人の背中につぶやきたくなる、フランスの戯曲的ドラマでした。
何年か後に、もう一度見たい。って思わされる、俺的には「名画」だった.....
今日はダメだよぉ、メンズデイだけど。
リピートには早すぎるから。
ゴジラもあるから。
二日続きのリピートは禁止だから。
って我慢するのが大変....
美しい映画
戦争はインチキなことだらけで、
力を持たない一般人が
命や身体、心、生活までも
奪い去られてしまうものだという思いを強くしました。
フランス映画らしい
美しい映像、美術、
衣装(特に仮面が素敵)、
音楽、踊りなどが散りばめられ、
芸術作品を鑑賞している感じでした。
親の心子知らずで、
父の愛を分からぬまま
別れることにならなくてよかったです。
せつない…
予告編を何度か観てたけど、青年の目が、すごく印象的。大きい目で、目ん玉落ちそう…って、彼のための言葉のよう。その彼が、冒頭の戦争のシーンで、顔を半分 失う。だからこそ、この目が印象的な彼がキャスティングされたんだと思った。家に戻りたくなくて、死んだことにするも、顔が半分ないから、家で、仮面ばかり作って、外出は控え目。最後に、憎んでいた父親と再会し、認められた途端に、死を選択。なんだか、とても、やるせなかった。…っていうのは、見終わった後の感想かな。観ている最中は、クズ上官に嫌気がさすばかりだった。戦争をしたくて、けしかけてみたり、浮気したり、ワイロ送ったり…。ラストは、死んでくれてるはずだから、ざまみろ…と心の中で言ってしまったくらい。帰還兵のおじさんの方は、運のいい人ですよね。戦地では、青年に助けられて、警察に捕まるも、見逃されて…。でも、きっと、イイヒトだったからなんでしょうね。とても良い作品でした。
タイトルが・・・
天国というタイトルがある以上、誰かが死ぬんだなとは思ってました。
そういう気分で見始める映画は悲しいです。
お姉さんの存在が最後に物語をスカッとしてくれましたね。
お父さんと弟が大好きだったんですね。
ハッピーエンド好きとしては、死んでないと信じます(笑)
鳥の仮面だもん。飛べるはず。
覚書(良い映画だけど、なんかスッキリしない)
帰る場所を失ったおっさんと、帰りたくない青年、二人の帰還兵がWW1後のフランスで国相手に詐欺を働く。
良くも悪くも平凡なおっさんと、芸術家肌な青年は最初からすれ違っていたが、片や(一度捕まったっぽいが)大金と家庭を手にし、片やわだかまりのあった父と和解し命を絶った、対象的な結末が印象に残る。それと青年の「冒涜したいんだ」という言葉。
わかりにくくはないが、わかりやすくもない、説明的な映画ではない。ある見方をすれば自分たちを地獄に送り、居場所も奪った国や社会を「冒涜」することは成功してる。人を人とも思わず青年の実家を乗っ取ろうとした中尉への復讐も結果的に果たした。大金も手にした。しかしスッキリしない。なんやかんやあってもおっさん(とチビの女の子)がハッピーエンドを迎えたのに、首謀者の青年が薬に手も出した挙げ句自害してしまったからだと思うが。どれだけ詐欺の絵が注文されても、詐欺のために敢えて平凡に描き、詐欺だから名乗り出ることもできず、大金を手にして騒いでもそれが何になったのか。
最初は青年がおっさんを振り回しているような印象だったが、終わって振り返ると計画が順調に進んで身なりも良くなるおっさんと少女に対して、仮面ばかり増えて外にもろくに出てる描写がない青年の虚しさが通底してたのかもしれない。
フランス映画は、粋やね。
第一次大戦の激戦地で、命を助けられたが、しかし
恩人は、顔に傷を負ってしまう。
家に帰ることを拒否し、名前を偽り帰国。
スティングのような詐欺と復讐劇がはじまる。
フランス映画は粋やね。
仮面が奇抜
戦争で顔が半分なくなった男とその男に助けられたおじさんが2人で慰霊碑詐欺をする話。復讐ユーモアコメディだったりもする。
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主人公は顔がなくなったから殆どが仮面姿で登場。だから演技が目か身振り手振りだけなんだよね。それでも青い目から伝わってくる悔しさ悲しさは印象的。
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世界観もthe西洋という雰囲気で西洋コンプレックスを持つ私にはもう全てが好きだったなぁ。
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恐らくこの映画の中で赤と青と白がちょいちょい印象的に使われる。フランスの国旗の色と同じなんだけど、最後のシーンだけ赤が消えるのが気になった。
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おじさんは青い服を来て両サイドの2人は白の服。国旗の青の意味は自由だから多分おじさんが自由を手にしたってことだと思うけど、赤の博愛がないのはなんでだろ?.
原作の消化不良が一気に解消しました。
『その女アレックス』があまりにも衝撃的だった反動か、この原作は今ひとつだった、という読後感を抱えたまま鑑賞しましたが、映画としての構成(脚本化)が見事で、ラストのもっていきかたなどは、原作からは読み取りづらかったエドゥアールの気持ちまで描かれているように感じました。
勿論私なりの解釈でしかありませんが、そのおかげで原作と一体化した満足感がとても大きなものとなりました。
・父親との闘い…経済的・親権的庇護下にある子どもは宿命的に理不尽なほど圧倒的に不利な状況での抵抗しかできない。ましてや、父親が社会的大物であれば尚更である。
・戦場での不条理……行為の正当性とは全く関係なく、幸運(悪辣な中尉が逆玉の輿に乗り、軍人から実業家へ華麗な転身を遂げる)、不運(顔半分が吹き飛ばされる)に振り分けられてしまうことがある。
生き延びてしまったエドゥアール(それが本人にとって幸運だったのか不運だったのかはラストの解釈で分かれるところだと思います)は、せっかく別人になりすますことができていたのに、結局は父親への復讐(詐欺でダメージを与えることはできるが、自分が生きてることもバレるかもしれない)という形になったのは、父親に認めて欲しいという屈折した愛情表現であり、それこそが生き続けた目的だったのだと思います。
記憶が薄れており自信はないのですが、たしか原作でのアルベールは気が弱く優柔不断に描かれていた気がしますが、この映画では語り部として適度な存在感で登場しているのも脚本の妙だと感心するばかりです。
大きな存在の父親に認められることが生きる目的となり、それを達成して天国に行くことが救いとなる。戦場で命を賭ける、という人間にとって最大級に過酷な理不尽さを経験した後では、それでも充分に幸せなことなのでしょうか。最後に着けていた仮面の羽根は天国に召されて空に昇っていく姿、或いは何かのくびきが外されて自由になれる事の象徴のように思えました。
仮面の力
父親が本音をはばからずに語れたのは、きっと仮面の力があったから。
発作を起こしていつ亡くなるかもわからない身で、死ぬ前に謝れたことは救いであっただろう。
最後にああやって抱きしめ合えたことが、この映画でいちばん感動したシーン。
主人公はもう喋ることはできないけれども、きっとこう言っていた。
「お父さん、ごめんなさい。そして、ありがとう。」
これも仮面があったお陰で、素直になれたのだと思う。
息子として、最後の親孝行ができました。
何も期待せずに見に行った映画だったのに、ものすごく厚みのある素晴らしい物語に出会えました。
よく、事実を映画化したものを好んで見に行っていたのですが、こういう映画もこれから見に行ってみようと思わせてくれる作品でした。
風刺に満ちた極上の仮面劇
原作未読の為、映画を見ての感想のみ。
従来神話やファンタジーが大好きで、比喩、隠喩、象徴、予定調和的構造は大好物。好みにどストライクだった。
風刺や皮肉に満ち溢れ、アルベールの回想という劇中劇の形で語られる物語は、寓話的戯曲的風合いだ。
顔半分を抉られたマスクの男、アーティスティックな数々の仮面、孤児の少女。どこか退廃的で芝居がかったファクターが、不安を煽り心をざわつかせる。
誇張されたキャラクター達が、時に滑稽に繰り広げる詐欺物語の裏には、深く苛烈な戦争への怒りと悲しみが、一貫して流れている。奇怪な仮面の向こうから覗くエドゥアールの眼差しが、痛烈に私達を糾弾し続ける。
銃を突き付けるアルベールに、「銃を下ろせ、戦争は終わったんだ」と言うプラデル中尉の台詞。違う、何も終わってなんかいないんだよ!
次々と切り替わる仮面が、言葉にできないエドゥアールの心情を表し、露になる目だけで、悲しみ、怒り、怨み、愛、千差万別な感情を表現する演技も素晴らしい。
プラデル中尉の、徹底したゲスっぷりも凄い。戦争、不正、不条理な社会への怒りが一層駆り立てられ、因果応報的末路の納得感が増す。
かつてのアルベールをなぞるように、土砂に埋もれていくプラデル。
鳥の面を被ったエドゥアールは、鳥のように両手を広げて宙に舞う。
劇中劇の幕は引かれ、映画冒頭に何気なく示されたパズルのピースが嵌まるように、アルベールの物語も一つの区切りを迎える。
全てが収まる所に収まった終演に、ため息を吐いて感嘆した。
エドゥアールの家族との関係や、プラデルの戦後の立場など、原作未読の私には駆け足で少し解り辛い所もあった。
フランス語が解れば、デッサンの書き文字など、もっと面白い要素があったかもなぁという部分も。
しかし大方大満足。
こういう出会いがあるから、ミニシアター系は侮れない!
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