「悲劇を覆いつくす力」天国でまた会おう つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
悲劇を覆いつくす力
本作「天国でまた会おう」は紙一重で反戦映画ではないと私は思うが、内包された戦争に対するメッセージは確かにあった。
今までの戦争映画や戦争の傷痕を扱った作品の中で主に反戦を謳っている、いわゆる反戦映画の多くは、だだ漠然と戦争は良くないとだけ表現していたのに対して、本作では具体的に、戦争を始めた者、戦争で利益を得た者、戦争で傷付いた人を冒涜する者、を悪としている。
その全てをプラデル一人に背負わせ、戦争の悪を擬人化したような悪役を誕生させたのは斬新だ。
そして戦争の権化プラデルに対抗するのは、仕事や恋人を失ったアルベール、体を失ったエドゥアール、親を失ったポリーヌ、という、正に戦争によって傷付いた三人。
分かりやすすぎる対決の構図に応援せずにはいられなくなる。
しかし、冒頭からアルベールが取り調べを受けている場面からもわかるように、主人公チームは犯罪者だ。本来ならば勧善懲悪とは程遠い後味の悪さが残りそうなものだが、そうはならない理由は、プラデルの徹底的なゲスさ、作品の雰囲気が持つ明るさとコミカルさ、そしてエドゥアールの仮面に代表される芸術にある。
仮面の美しさ、ピエロのような動き、演劇のような場面、エドゥアールの絵、これら芸術と呼べるものは心の豊かさだ。
悲劇的な出来事を心の豊かさで覆いつくすことで、どこか明るくポジティブなものに見えてくる。
その決定的なシーンが、鳥の仮面をかぶったエドゥアールのラストシーンだろう。
起こっている出来事とは全く違う感覚、とてもとても美しいものを見た気がした。
美しさは芸術、芸術は心の豊かさ、心の豊かさは悲劇を乗り越える。これがこの映画の力。
一番最初に本作は反戦映画ではないと書いたが、そういったものを含んでいないという意味ではない。
主人公チーム三人のエンディングは万事解決の万々歳ではないにもかかわらず、明るくポジティブな印象を残す。
悲しみや虚しさのような気持ちが全く残らない反戦映画なんてあるのかい?
反戦なんて狭い範囲でカテゴライズされない、家族の愛と絆の芸術映画だ。