「ちょっと待って、私だけ?」こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 こいもさんの映画レビュー(感想・評価)
ちょっと待って、私だけ?
ずっと気になっていたので観てみましたが、映画だとわかっていても引っかかってしまう部分がちらほら。冒頭の鹿野さんの態度は、演出として理解できますし、それに翻弄される美咲と田中くんのキャラクターもよく伝わってくる構成になっていたので、我慢して観られました。しかし、鹿野が、「みんな対等 障がい者が人生を楽しんで何が悪い」というモットーで、周りの人に迷惑をかける様を見ていると、親しき仲にも…という言葉がやはり浮かんできてしまうし、命令の仕方も、田中に対する侮辱も、明らかに「対等」では無いのでは?と感じてしまってすごく気になりました。
美咲のキャラも、大学を誤魔化して田中と近づこうとする可愛らしさや、田中の押しに負けてボランティアに行ってあげてしまう優しさを持ち合わせておきながら、「障がい者って何様?」と言ってのけるキャラクターに、最初は愛を感じ、応援する気持ちで観ていました。しかし、結局は何故か自分のポリシーを捨て、鹿野にすっかり陶酔していくばかりでなく、挙句の果てに鹿野と恋愛関係になっていった辺りでモヤモヤが止まりませんでした。田中くんのなよなよしたキャラクターや不器用さ、自分のプライドを何より優先してしまう態度に腹がたつのは理解出来るのですが、だからといって、自然消滅として一方的に片付け、鹿野に対し、ポルノDVDについて聞いたり、胸を触らせたりしておきながら、プロポーズを断るのはおかしくない?え、というか、そこで田中を理由にするんだ?!と思ってしまいました。恋愛要素として組み込むにはあまりにも内容が入り乱れすぎていて、そういうストーリーとして昇華するのは、私には無理がありました。実話なんでしょうか…??
後半で、鹿野が具合悪いフリをして周囲を脅かす場面も、正直腹が立ちました。たしかに、今まで何度も命の危機を乗り越えて来たことに対する自負や、鹿野なりの考えがあって、それに周囲が同意しているのであればそれでいいじゃないか、とも考えられるのですが、そういう人たちも、命に関わる部分で職場に電話がかかってきた日には、「いよいよもうダメかもしれない」って、毎回本気で思うのではないでしょうか。それなのに、「ドッキリでした~許してくれるよね だって僕だもん」という姿勢の鹿野と、その他大勢のヘラヘラとした態度、それを「まあ仕方ないよね 鹿野さんだもの」ととろーんとした目で見つめる美咲に対して、終始、甚だ疑問でした。
そんな中、見終わったあとにレビューを見てみると、皆さん大絶賛されていてあまりに驚いてしまい、私と同じことを言っているレビューを探すも、見受けられなかったので、レビューを書いてみました。ただ、素直にいいなと思う部分もあり、例えば美咲と田中がお弁当を食べるシーンの2人のやり取りは、予定調和な感じがなくリアルで、合コンで付き合ったカップルのよそよそしさや、噛み合わなさが表現されていて素晴らしいなと思いました。キャスト自体も、皆さんすごくハマり役ですし、大泉洋さんの病気に苦しむ演技は見事でした。三浦春馬さんの演技もすごく自然で、「こういう人、いるよね」と思えました。ただ、やはり、鹿野というキャラクターの首尾一貫したポリシーの根底にある矛盾や、無理やりに組み込まれたようにも思える歪んだ恋愛要素には目を瞑ることができませんでした。