こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話 : インタビュー
大泉洋×高畑充希×三浦春馬「こんな夜更けにバナナかよ」に惹かれた理由とは
「なぜなんだろう」と興味が湧いたことが出演のきっかけだったと大泉洋、高畑充希、三浦春馬が口を揃えて語った映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」。3人が疑問に思ったのは、本作の主人公のモデルとなった鹿野靖明さんという人物の魅力だ。筋ジストロフィーという難病を抱えながらも、豪快に、そして奔放に生き、ときには周囲を混乱させながらも、多くの人に愛された鹿野さん。大泉らは演じながら、あるひとつの真実にたどり着いたという。(取材・文・撮影/磯部正和)
大泉演じる鹿野さんは、幼少期から難病である筋ジストロフィーを患い、首と手以外は動かすことができないという34歳の男性。人の手を借りなければ生きていけないのだが、鹿野さんは“自立生活宣言”をして、大勢のボランティアに囲まれながら生活を送ったのだ。
大泉は「鹿野さんは真夜中にバナナが食べたいと思っても、自分では買いに行けないわけですよね。当然ボランティアの人が行く。それ以外にもわがまま言い放題(笑)。普通ならちょっと気が引けてしまったり“わがまま言ったらダメかな”なんて思ったりするのかもしれませんが、鹿野さんはそんなのお構いなしなんです。単純に『なぜそんなわがままを言えるのだろう? なんで彼の周りには人がたくさんいたのだろうか』という興味が湧いたんです」と出演理由を明かす。
一方、そんな鹿野さんのボランティアとして参加する医大生・田中を演じた三浦も、実際に鹿野さんのボランティアを行った人間が、介助を通して自分たちの進む道が見えてきたという発言に興味を持ち「体感してみたい」と思ったという。田中の恋人でありつつ、鹿野に興味を持つようになっていく女性・美咲に扮する高畑も、過酷な運命を背負っているにも関わらず“お涙頂戴”的ではない鹿野さんの生き方に強く惹かれたという。
さらに高畑は、メガホンをとった前田哲監督から、急に電話が掛かってきて「どうして鹿野さんを題材にした映画を撮りたいのか」について熱弁を振るわれたというと「哲さんは、10年前に出演した映画(『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙へ』)で拾ってくれて映画業界に導いてくれた人。10年でどんな風に感覚が変わったか、久々にご一緒したいと思ったんです」ともうひとつの出演理由を明かした。
大泉は、鹿野さんという人物を実際に体現したことで「こんな夜更けにバナナかよ」というタイトルの持つ意味の解釈も変わってきたという。作品に入る前までは、健常者側からの見方だったが、鹿野さんを演じたことにより「動けない人間からしてみれば“しょうがないじゃん。俺は動けないんだから”という思いになるし、この言葉がわがままじゃなくなる時代が来るといいなという気持ちになりました」と大きな変化を語る。
続けて大泉は「鹿野さんは『みんなが普通にやっていることは僕もやりたい』と正直な気持ちを出して戦い続けた人なんだとわかった」と述べると「最初は鹿野さんのわがままにうんざりして喧嘩した人もたくさんいただろうけれど“普通のことをしたい”というひたむきな姿が、多くの人を惹きつけたのだ」と理解したという。
また、大泉の作品に取り組む姿勢は、三浦や高畑ほか多くの人の原動力になった。身体的な能力が徐々に落ちていく役柄だったため、大泉は過酷な減量にも挑んだ。「この映画だけ特別ストイックになったわけではないですよ」と謙遜するが、撮影中はほぼ毎日、走ることは欠かさなかったという。そんな大泉の姿に三浦は「本当にすごかった。ストイックな姿勢は僕には絶対できない」と舌を巻く。
もちろん見た目だけではなく、心も鹿野さんになり切った。高畑は大泉とは初共演となったが「クランクインからアップまで、気持ちを“よいしょ”って持ち上げることなく、ずっと鹿野さんと美咲の関係でいられたんです。鹿野さんとしゃべっていて、笑って、仲良くなって……気づいたら好きになっていました。それってすごいことなんですよ」と大泉の役との距離感に脱帽していた。
強いメッセージ性があるわけでもなく、「泣いてください」というお涙頂戴作品でもない。ただ「鹿野さんという人がいました」というシンプルなストーリーラインが、逆により強い思いを湧きあがらせる。「無理なく入ってくるよね」という大泉の言葉が、作品のすべてを物語っているように感じられた。