「君にはわからんな。君が若いからだ。」読まれなかった小説 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
君にはわからんな。君が若いからだ。
自分の書いた小説を出版しようと奔走する青年は、地元の著名な作家をつかまえて問答を仕掛け、我が意と添わなければ口元を歪めながら悪態をついて鼻で笑う。
ねえ、こんな不遜な若造の話を聞いてやろうと思うかい?
作家は、随分我慢した。青年の青臭い野心をへし折ることはせずに、言い分を聞いてやった。最後に怒れる気分をぶちまけてみたものの、理屈っぽい青年のために時間を割いてやった。
ねえ、それだけで十分誠意を見せてくれたと思えないか?
その小説がどれほどのものなのかは知らない。ただ、家族同様、僕がもし一冊を手渡された(金を出して読みたいと思えない)としても、おそらくテーブルのガタつきを抑えることくらいしか使い道がない。
落ちぶれたみじめな老父と、高みを目指しもがく息子。よくある構図だ。父は、人には理解できないことに固執し、息子は、そんな父にはなるまいと距離をとる。だけど、これって鏡だよね。父の若かりし頃と。そして、息子のこの先と。
「この世は美しいものだらけ」
「犬が吠えても商隊は進む」
「すべて近くに見えて遠い」
「時間は不思議ね、いつの間にか過ぎる」
「建築家は設計図は書くが、レンガの積み方まで支持しない」・・・
名言は、ここぞという時に語るから心にしみる。こうも洪水のように畳みかけられては、ありがたみがない。
最後の青年の行動は、父を思いやった行動などではなく、結局この青年も気づかぬうちにこの父のあとを歩くのだなあ、という冷めた感慨しか浮かばなかった。もし、それこそがこの映画の意図なのだとしたら、僕はこういい返す。
「それが言いたいにしたって、長げえよ!」
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