「傑作」A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
傑作
この作品は、耳を澄まして聞こえてくる目覚めの「音」から始まる。目には見えないけれど、耳を澄ました向こうから聞こえてくる者たちの物語。
死者となった彼は、肉体の代わりにシーツで魂を包んで戻ってきた。シーツに空いた二つの穴から辿る視線のせつなさに、私は胸を掻きむしられた。
曖昧だけどどうしようもなく離れたくない場所を「原郷」と呼ぶ。愛する人が去って行っても、家が壊されても、決して離れられない。作品の舞台が具体的にどこかは私にはわからないが、「ああ、ここは彼の原郷かもしれない」と思えるところを監督は映像で綴った。
始めのうちは、過ぎ去ったものへの追憶が色濃く残っているが、徐々に追憶することすら失われていくようだ。
過去と未来の時空との対話において、離れたくない原郷が失われていくことをめぐる感情が丁寧に描かれている。
「原郷」に縛られた魂がそこから離れるには「何か」が必要なのだ。
生者でも死者でもなくなった魂が、シーツを脱ぎ捨て高次元の世界へ向かえる根拠とは。
メモを手にしたことで、彼女と同じ夢想で結ばれた彼の魂は旅立った。
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