劇場公開日 2018年11月17日

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A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー : 映画評論・批評

2018年11月13日更新

2018年11月17日よりシネクイントほかにてロードショー

このまどろみのような映画は、眠っていたわたしたちの何かを目覚めさせる

幽霊の物語といってもホラー映画ではない。あるいは90年代はじめに大ヒットした「ゴースト ニューヨークの幻」のようなラヴ・ストーリーでもない。どちらかといえば後者に近いとも言えるのだが、この映画では死んでしまった男の幽霊と生きている彼女がコミュニケーションを交わすことはない。徹底して幽霊の視線、幽霊の意識、幽霊の記憶をなぞっていくだけだ。時間と意識と記憶の物語と言ったらいいだろうか。夢を見ている時間の感覚に近い。夢というよりまどろみか。眠ったまま現実世界と関わるぼんやりとしてとりとめもない肌触り。

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したがって時間は早く流れたりゆっくり流れたりする。ある時は一瞬で世界が変わり、愛しい彼女がいなくなり、別の家族がかつてふたりが暮らした家で暮らし始める。ある時は彼の死を悲しむ彼女が皿いっぱいのパイを食べ続け食べきって吐くまで、ぼんやりとそれを眺め続ける。時は一定の速度で流れるのではないのだ。わたしが今ここにいる、その存在と意識と世界との関係によって変化し、ねじれ、思わぬことが起こる。その意味で幽霊もまた生きているのだと、この映画は語る。人間の形を失った何かが、彼の時間とともにそこにいる。映画はその時間を見せることができる。

しかしそれだけではない。時のねじれは思わぬことを起こす。未来へと進んでいるかに見えた時間は気がつくと過去に接続し、幽霊は自分の記憶の範疇外の過去の記憶を見てしまうのだ。わたしたちは時間の上を流れ、歩いているのではなく、時間そのものがわたしたちの中に流入するかのような、時間のメディアとしての存在であるということか。見知らぬ人の記憶がわたしの体を貫く感覚。だが「見知らぬ人」とは一体誰か? この映画の結末はそんな人生の神秘に触れる。その時時間は多方に広がり、私たちは生も死も超えた存在となるだろう。このまどろみのような映画は、眠っていたわたしたちの何かを目覚めさせるに違いない。

樋口泰人

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