バンクシーを盗んだ男のレビュー・感想・評価
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作品を盗まれるバンクシーが盗むものとは?
世界中から注目を浴びる英国出身の覆面アーティスト、バンクシー。
パレスチナとイスラエルを隔てるベツレヘムの分離壁(俗称グリーンライン)に描かれた『ロバと兵士』の風刺絵を巡って描かれた本作品。バンクシーは出て来ずに、バンクシーに興味を持って居る人達が、バンクシーについて色々語っているドキュメンタリー映画です。
今回、話題に挙げられている『ロバと兵士』という絵。従来どおりの『落書き』と言ってもいいくらいの、さらっと描かれたステンシル絵なのですが、描かれた場所が特別なので、見る人の感性によって、多角的な見方があることが浮き彫りになってくるところが、この映画のとても興味深いところです。
カッコいいと思う人。哲学を感じる人。政治的に捉える人。人種差別していると怒る人。果てはコンクリを切り崩してビジネスにする狡猾な人まで出てくる。ただの1つの絵だったものが、作者の手を離れた途端、それはもう、作者のものではなく、見る人達の物へと変化していく。どういう経緯で造られたものかなんてどうでもいい。大事なことはただ一つ。見る人にとって価値があるかどうか。
同じバンクシーものでも、ダズニューヨークでは、バンクシーのカッコいい所が多く表現されていたけど、こっちのバンクシーは、最初は、宗教的な問題を取り上げているのかと思いきや、どちらかというと、他人のふんどしで相撲をとる人達への疑問を投げかけているという印象でした。
好きに描いて所有権を勝手に放棄して、知らず知らずのうちに沢山の人達の思想に斬り込んで、心を盗むことに成功しているバンクシー。無秩序で排他的な方法で、芸術という戦法を武器に、これだけ人々に斬り込んでおきながら、「あとはご自由に…」と何も追求しない。
それをいいことに、価値を付けていいのかよく解らないものに、勝手に所有権を主張したり、価値を付けて祭り上げた挙句、結局、膨らんだ価値を持て余すという富豪達の身勝手さときたら…。切り取られた『ロバと兵士』は、船で運ばれて、サザビーズみたいな高級オークションにかけられたりするのですが、法外に価値が上がりすぎたせいで、買い手がつかず、今は何処かの倉庫に眠っているとのことです。そして皮肉にも、分離壁には他にも素敵な沢山の風刺画が描かれていますが、この映画の撮影から10年経った現在も、街は何の変化もないままだそうです。理不尽極まりない話で、見終わった後はムカッ腹でした。
見終わった後、バンクシーが願っているように、私も、1つの綺麗な絵を、何の偏見もなく、みんなで「イイね!」と共有出来る日が早く訪れると良いなぁと、切に感じました。
言うなれば、この映画もバンクシーの名前に乗っかってるようなもんですが…(苦笑)、面白い活用方法なので、まぁ良いんじゃないでしょうかねぇ〜。
よかった
有名芸術家が土足で踏み込んで生活や心を乱すという側面が強調されていた。しかしそれ以前に、壁自体がそうとう生活や心を乱している。政治に乱されるのと芸術や有名人に乱されるのは気持ちが違うのかもしれない。そこにお金も絡んできて、作品は誰のものなのか、それで儲ける者はだれなのか、様々な問題が生じる。
最近、テレビを見るのが苦痛になっている。特に芸能人が出ている番組が苦手で、本当に興味がないのに覚えさせられてしまうことや、知りたくもないのに気にさせられることが嫌で仕方がない。それと似た感覚を感じた。
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