「ただのイタリア農村リアリスモ映画ではない寓話映画」幸福なラザロ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ただのイタリア農村リアリスモ映画ではない寓話映画
20世紀末と思われるイタリアの小さな村。
外界との交渉もなく、公爵夫人のもと、タバコ栽培を行っている。
ある日、公爵夫人と息子のタンクレディが村を訪れるが、タンクレディは田舎の生活が嫌。
無垢な青年ラザロ(アドリアーノ・タルディオーロ)と知り合い、身を隠した自身を何者かに誘拐されたようにみせかける・・・
というところから始まる物語で、イタリアの一寒村の描写はエルマンノ・オルミ監督『木靴の樹』を彷彿とさせる。
なので「イタリア映画の農村リアリスモ映画だぁ」と思って観ていたら、タイトルロールのラザロが急峻な嶺から転落してしまうし、狂言誘拐だったにもかかわらず警察に通報され、村人全員が警察に連行されてしまう・・・
とはいえ、これだけならば、まぁ、イタリアン・リアリスモの範疇。
だが、映画はその後、あっというまに時空を飛び越え、現代にやってくる。
嶺から墜落したラザロはケガもなく、もと居た村に戻ると、すべてが荒廃しており・・・となり、驚天動地な展開。
前半、年老い、群れから離れた狼が人家を襲うようになり、その狼と対話を試みるひとりの男の寓話が語られるが、これが主要なモチーフ。
もうひとつは、ラザロという名前。
ラザロは、キリストの奇跡によって死後4日目に蘇生する聖人の名前で、無辜無垢の証。
「狼」を21世紀の文明と見立てたように物語後半は推移するが、後半を映画として活かしているのが前半の農村パート。
クライマックスは、論理的には理解不能の物語にもかかわらず、ある種の「奇跡の終わり」をみせられ、胸が熱くなるところがありました。
これ以上は、完全にネタバレしそうなので、書くのは止しておきます。
とはいえ、ただのイタリア農村リアリスモ映画ではないので、その手の映画好きには推奨をします。