「ポーランド版「浮雲」」COLD WAR あの歌、2つの心 もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
ポーランド版「浮雲」
第一に「COLD WAR」という題名が面白い。何故なら主役の二人は別に時代に翻弄されたわけでも冷戦の犠牲になったわけでもないからだ。証拠に「冷戦」というと日本人は分断とか鉄のカーテンとかをすぐイメージしちゃうけれど、二人は結構行ったり来たりする。それも「向こうへ行く為なら何でもやります」みたいな感じで。きっと違う時代や状況下で出会ったとしても、あの二人であれば似たり寄ったりの生き方をした挙げ句同じ結末を迎えたことだろう。こういう、お互いに求めあっているのだけれども、一緒にいたらいたで嫌になって別れ、別れたらまた会いたくなって、を繰り返す腐れ縁の色恋にはハッピーエンドなどないのだ。そういう映画に「COLD WAR(冷戦)」とネーミングしたのは皮肉である。映画会社の宣伝文句や(チラシの)解説が的を得ていない良い例だ。やっぱり映画は先入観無しで観て自分の感性を信じなければ。逆に仮に監督が冷戦時代の時代感とでも言うものを表現したかったのであれば、取り敢えず映画にはストーリーがあった方が良いのでこの二人を道化役にして一応物語の体裁は整えました、とうい感じか。というわけで、この映画のストーリーには感動するところなどひとつもなかった。『オヨヨ』の歌は良かったけど。そう、ボーランドという国とその芸能文化、特に歌の意味が分かればもっと興味深く観れただろう。あと各エピソードの起こった年が都度出てくるが、歴史上何があった年かチェックしておくべきか。色彩感覚に溢れた黒白映像とでも言うべき驚くべき映像美。各シーンを思い返すとカラー映画より雄弁に色を物語っていたように思う。ラストシーンなど畑が確かに色付いていたような錯覚に囚われる。主人公たちは必要最小限のことしか話さない。あとは表情を含め映像が物語を紡いでいく。ハリウッド製の電子紙芝居も悪くはないが、やはりこれが映画とだと思えることに感動する。