「ゼインに感服」存在のない子供たち NUSさんの映画レビュー(感想・評価)
ゼインに感服
この作品のような、日本とは遠く離れた地での地獄巡りを観るときは注意していることがある。それは、映画で知る世界がどんなに過酷で、またそれにより今の自分がどんなに幸せに思えたとしても、今自分が自分を取り巻く現状を「辛い」と感じてしまう事実は変えられないということだ。この作品を観た以降も、きっと自分は寝坊したり一日中だらだらして過ごすことがあるだろう。これを意識しないと、その時自分の無力さやぬるま湯に浸る自分を過剰に責めて鬱病になってしまう可能性がある。それを防ぐために、のめり込み過ぎないよう距離を置き続けて観る必要があるのだが、そんな状態でこの作品をしっかりと"観て"、"理解する"ことが出来るのか不安だったが、果たして杞憂でした。
今年一の大号泣。主人公を自分に重ね合わせてみた「凪待ち」より遥かに泣いてしまいました、なんなら帰りの電車でも思い出し泣きしたくらいです笑
ゼインのいた世界は生まれた時から地獄で、しかも生きている限り世界は更に牙を剥いてくる。場所を変えたとしても、それが止まる事はない。そんな中で妹の身を案じ、ヨナスを世話し、ひたすら歩き続けるゼイン("美しい"という意味らしい)がただただ美しかったです。
なぜ大家は鍵をかけた、、、
ヨナス、せっかく引き取ってもらった先があれかよ、意味ないじゃん、、、
登場人物は全員ギリギリ、誰も悪くない。そりゃ両親だってあんな場所で生きてたらストレス溜まるでしょ、セックスしたくなるよ。
でも、じゃあどうすれば良かったのか?分からない。
原題「カペナウム」だが、悔い改めなかったのは誰か?分からない!
終盤一気に流れが変わってハッピーエンドで終わるんだけど、あの後も各登場人物と世界、何かが変わるとは思えなかったです。じゃあエチオピアやスウェーデンがレバノンより良いのか?いやこれ同列で比較するのはダメか。
でも、鑑賞後の調べでゼイン役の子が北欧に移住できたって事実を知って、本当に良かったって思えました。
日本も将来こんな人達が絶対出てくるし、多分もう居る。観ながら「万引き家族」が頭の片隅にありましたが、その前に「誰も知らない」有りましたね。他の方のレビュー見て思い出しました。まだ観てないので、早く観たいと思います。
最後に、こんなにつらい125分なのに耐える事が出来たのは、随所にちゃんとユーモアが挟み込まれていたからです。ちゃんと笑えるパートもあるんです。
凄い作品を観ました。2019年ベスト候補。