「考えなければならないこと」存在のない子供たち andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
考えなければならないこと
文字通り「存在のない子供」の視点が追う世界。
諦めきった主人公ゼインの目。妹を救えず、親には罵倒され、家出した先で得たささやかなな平穏も、抗えない「現実」に壊される。
搾取する者とされる者。生まれた時点で決まってしまっている人生。ゼインの諦めは「生まれてしまったこと」に達している。それでも必死で、妹や「弟のような存在」ヨナスを護ろうとする少年の美しさ。そしてその痛々しさ。誰も救ってはくれない現実がそこにある。
結局ゼインは「罪を犯す」ことによって自分の訴えを世間に知らしめ、両親を「自分を産んだ罪」で訴える行動に出る。罪を犯さなければ...彼の訴えは届かなかったのだろうか。考えると胸が詰まる。
レバノンに見られるこのような格差は、決して他人事ではない。この映画を映画館で観ている我々が当事者意識を持って考えなければいけないのだと思う。
そしてもうひとりの主人公ともいえるラヒル。エチオピアからレバノンに出稼ぎにやって来た彼女の苦闘も、また考えなければならない問題だ。そしてそこにつけ込み続ける人間がいる。負の連鎖をどこで切るのか、切れるのか...。
ほんの少しの救いを持って映画は終わるけれども、彼らにはこの先も苦難があるのだろう。どう防ぎ、どう護るか。それは国を作っていくということそのものであり、自分の話ではないからといって無視できない問題だ。
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