「みんな"存在のない子供たち"」存在のない子供たち ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
みんな"存在のない子供たち"
去年カンヌ国際映画祭ではパルムドール賞大本命だった、ナディーン監督の本作。結果は熟練の技が光る是枝監督の「万引き家族」に軍配が上がったが、本作は審査員賞を受賞した。
審査員長のケイト・ブランシェット様が語る去年のカンヌ国際映画祭のテーマは"インビジブル・ピープル"だそうだ。
確かに「万引き家族」も本作「存在のない子供たち」もテーマにはピッタリな題材を取り上げた作品である。
私は本作観賞中にウィリアム・デフォー出演の「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」を思い出した。
子供たちの日常を垣間見るような作風と、ドキュメンタリーにしか見えないその自然な人間模様に共通点を感じた。
しかし、私が本作が大傑作であると思うのが、本作にいくつか挿入されている瞬間的に感情を激しく揺さぶってくるシーンが忘れられないからだ。特にゼインが包丁を取り出し、走り出すシーン。そしてそのシーンの音楽。カメラワーク。完璧だ。素晴らしい。
音楽を手掛けるのはナディーン監督の夫であり本作のプロデューサーでもあるハームド・ムザンナル。
このエモーショナルな演出が他の社会派映画からも一線を画したところだと感じる。
両親を訴えるという展開は唯一のフィクション的な展開で、若干のコミカルさも足して重い雰囲気にならないようなバランスになっているのも良い。
そして本作が訴えかけるメッセージとは、この問題はゼインがのみではなく、彼らの親世代からすでに始まっている負の連鎖だというところ。それをこちら側に訴えかけてくる強いメッセージだと思う。
ゼインの両親も、ヨナスの母であるラヒルも、過去の存在のない子供たちであったのだ。
ゼインに向き合い、唯一手を差し伸べる弁護士を演じるのは本作の監督でもあるナディーン監督。
まさに、この問題を映画として作り上げる監督と、主人公に命を与えたゼイン(彼の本名でもある。)が手を取り合い、立ち上がる象徴的なシーンにも思えた。
辛い展開が続くが、ラストに待っているプレゼントに落涙。
しかし、この問題は何も解決していないのだ。解決させるのは映画の中ではなく、現実だということだ。
改めて素晴らしい映画だと思う。