劇場公開日 2019年7月20日

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「真実は映画の中に」存在のない子供たち aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0真実は映画の中に

2019年8月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

素晴らしい。そして、恐ろしい。

主人公ゼインの素朴な瞳がだんだんうつむきがちに、虚ろになって行くのがとても切ない。子供が苦しむだけで反則なのに、これでもかというくらい厳しい事態が続く。

貧困や虐待というと「万引き家族」が思い出されるが、子供に手を差し伸べる"家族"がいたが、こちらは助けてくれる大人がいない。
親から逃げ、路頭に迷う12歳の少年ゼインに、唯一手を差し伸べたのは、不法就労のシングルマザー、ラヒル。家に招き、赤ん坊のヨナスをゼインに預けて働きに出る。しかし、やがてラヒルも窮地に立たされて、なんとかしようと奔走する。
ある日、ラヒルは家に帰らず、ゼインはヨナスを抱いてラヒルを探しに街に出る。赤ん坊のヨナスを抱えたゼインが、トボトボと道を歩く。このシーンだけでグッとくる。誰も助けの来ない中、幼い二人が街を彷徨う。ラヒルは見つからず、ゼインは自分でヨナスのためにミルクや食料を手に入れ、なんとか糊口をしのぐが、やがてそれも…。

暴力や絶望が前面に出ることはなく、ゼインの目線で淡々と日常が描かれる。ドキュメンタリーのようだが、きちんと整理された物語が展開され、映像も綺麗に切り取られて映画としての主張が、全編に溢れている。これが逆に、圧倒的なリアリティとして迫ってくる。ニュースやドキュメンタリー番組で、こうした実情を知るが、ドラマとして整理されることで、実態がストレートに伝わってくる。子供に労働させる親、子を売る親、非合法な商売を手伝わせる親。ゼインの目線は、ただただ冷静に真実を見つめる。

ただ、IDが無いだけで、親は仕事に就けず、貧困のしわ寄せが、子供達を直撃する。法律上はその親の子供も存在せず、こうした社会の仕組みが、貧困の連鎖に追い打ちをかける。そして、ゼインは素直に親の不実の罪を訴える。

伝わる真実は、映画の中にしか無いのかもしれない。

AMaclean